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黒い宝石と月の姫
「ってことは……、アレクサス王子って……」
「そう、亜蘭の婚約者って事だね」
驚いて開いた口が塞がらない。
僕達の国では、性別で結婚出来ないという括りは無い。
龍神の力で母様みたいに男でも妊娠出来るし、魔力で女性同士でも妊娠させる事は出来る。(詳しい事は分からないけど、ババ様達魔女の一族は、魔力で女性同士の妊娠を可能に出来るらしい)
だけど、他の国ではそうでは無いだろう。
僕が『月の姫』って呼ばれていたとしたら、女性だと思って来たら男だったと知ったら……そりゃあショックだよね。
「でも……母様はそんな事、一言も……」
「言わないだろうね。母様は、ああ見えてロマンチストだからさ。亜蘭には、普通に出会って普通に惹かれ合って婚約して欲しかったんじゃないかな」
デーヴィドの言葉に、僕は俯く事しか出来ない。
デーヴィドの『母様はああ見えて』発言は一先ず置いておいて、アレクサス王子の事を考えてみた。
僕にはアレクサス王子がとても魅力的に映ったし、理屈抜きで惹かれてしまう。
なんて言えば正解なのかは分からないけど、目が……心が……細胞が……アレクサス王子を追い求めてしまう。
だけどアレクサス王子にとって僕は、魅力的に映ってはいないって事なんだよな……。
そんな事を考えて落ち込んでいると
「実際、亜蘭はアレクサス王子にあんなに冷たい態度を取られても、そうして惹かれている。俺達、龍神に守護されている王族は、魂で運命の番に惹かれるようになっているからな……。だけど、守護されていない側の、しかも他国の人間にその能力は無い」
デーヴィドはそう言うと、窓辺にある椅子に腰掛けた。
両手の指を三角を作るように組むと、額に当てて深く溜め息を吐き
「亜蘭。これから話す事は機密事項で、アレクサス王子の境遇についてはあくまでも俺の仮説だから、そこを念頭に置いて聞いて欲しい」
いつになく真剣な顔をするデーヴィドに、僕もデーヴィドの反対側に座り頷いた。
「まず今回、母様が僕達に伝えたアレクサス王子の名前だけど、セイブリア帝国から届いた資料には『アレク』王子と記載されていたんだ」
「えっ!」
デーヴィドの言葉に驚くと、デーヴィドは窓の外に視線を向け
「これはあくまでも仮説だけど……、アレクサス王子の失脚を企てた者の仕業だろう」
そう呟いたのだ。
「失脚って……」
「アレクサス王子が来た日、母様が父様にアレクサス王子の名前が亜蘭と1文字違いだなんて運命的だ……なんて話をしたら、父様は驚いて『セイブリア帝国の第二王子の名前は、アレクでは無くアレクサスだ』と答えたらしい。それで、晩餐会までには俺達に正式名を伝えようと思っていたら……」
「僕が木から落ちて、先に出会ってしまった……」
僕の言葉にデーヴィドが頷いた。
「父様は母様に送られて来た資料が気になって、セイブリア帝国に諜報部隊を送ったんだそうだ」
深刻な表情のデーヴィドに、僕は思わず息を飲む。
「分かった事が幾つかあった。まず、セイブリア帝国は身分制度がかなり厳しい国で、人種差別もかなり激しい国らしい。肌に色がある種族は、奴隷か踊り子等の低い身分しか与えられない。だからなのか、セイブリア帝国には王子が5人居るらしいが、アレクサス王子の王位継承権は5番目になっているそうだ。おそらく、今妊娠している側后が男の子を産んだら、6番目になるんだろうな……」
「そんな……」
デーヴィドの言葉に、アレクサス王子の境遇を察する事が出来た。
第二王子なのに王位継承権が5番目という事は、決してアレクサス王子に王位は継承させないと言っているのと同じだ。
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