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「セイブリア帝国の皇帝は、かなりの好色家らしくてね。男女共に、美しい者を後宮に入れてハーレムを作っているらしいよ。今では、後宮に十数人の側室が居るという話だ。そんな男が、アレクサス王子の母君でいらっしゃるシーラ様と出会い、運命的な恋をしてしまった……なんて有り得ると思うか? 実際は、強姦されたらしい」
想像を超えた事実に、思わず口元を両手で覆った。
「『誰にも摘まれた事の無い、気高き美しい花を手折りたい』ただそれだけの理由だったらしい。だけど、誤算が生じた。シーラ様は、アレクサス王子を身篭ってしまったんだ。バレたらお腹の子供ごと殺されると考えたシーラ様は、身を潜めてひっそりと暮らしていたんだそうだ。しかし結果は、アレクサス王子が6歳の時に病を患い、神殿に治療を受けに行った時にバレてしまったという事らしい」
「なんで?」
「神殿には、王族の血に反応する石があるそうだ。その石が、アレクサス王子が治療を施される部屋に入った瞬間に光ったらしいよ」
「そんな……」
「その場で2人は王宮に連行され、シーラ様は卑しい身分でありながら、勝手に王族の血を引く人間を産んだ罪と、既婚者である皇太子を誘惑した罪で処刑。アレクサス王子は、第二王子として迎え入れられたそうだ」
デーヴィドの話に、僕は愕然とした。
僕が暮らすこの国では、身分制度はあるものの、人種差別は無い。
身分制度も、身分が高いから民より偉い訳ではなく、領地を統治する為の役職的な意味合いになりつつある。
貴族だから偉い……では無く、貴族だからこそ、領民の平和と安全を考えた領地経営を強いられている。
だから、領地に何かあったら簡単に爵位など奪われてしまう。
とはいえ、不作や自然気象等のやむを得ない場合は、これに該当しない。
又、民の不平不満も、一方だけの申告で決めたりはしない。
諜報部隊が公正に事実確認をした上で、王と貴族の代表、平民の代表で話し合われて結論が出るのだ。
だから僕には、デーヴィドから聞いた話しは信じ難い話だった。
肌の色だけで、差別されて虐げられるなんて……。
そして僕はハッとした。
たまに外交で、父様は他所の国に出向く事がある。
その時に、絶対に母様を連れて行かないんだ。
最近では、デーヴィドを連れて行ったりしていて、僕や母様を国外へは絶対に出そうとしない。
僕はてっきり、母様はエリザが小さいから離れられないし、僕は腕っぷしが弱いからだと思っていた。
そうか……、そういう事情があったからなんだ……と、僕は父様やデーヴィドに、ずっと守られていた事に初めて気が付いた。
そんな事を考えていると、僕の頭をデーヴィドが優しく撫でて来たのて、驚いてデーヴィドの顔を見ると
「亜蘭には、いつまでもそのままでいて欲しいと思うのはいけない事なのかな……」
ポツリとそう呟いた。
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