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俺は今日も歌う
*
「今日も公園で歌うから皆来てくれよ!」
俺がそう言うと、皆何故か苦笑いを浮かべる。何故だ。
「何だよ!俺の歌が聴けないのか!」
目の前の同級生達に向かって激昂する。皆が慌てて行くことを了承する。
放課後。
「今日は、俺のライブに集まってくれてありがとな!」
ジャングルジムのてっぺんが俺の定位置だ。ここなら観客全員を見下ろせる。それに歌いながら移動したりとパフォーマンスにも事欠かない。
今日の観客は、俺のクラス3年1組全員に、隣のクラス半分。まずまずの客入りだ。
「まずはこの曲から聴いてくれ!」
俺が歌い始めると、下から見上げている皆が順番に失神し始めた。どうやら今日も俺の稲妻走る美声にしびれちまっているらしい。流石に今年はロックフェスからお声がかかるかもしれないな。
俺はその後も何の問題もなく自分の美声を轟かせ続けた。
全5曲。それにアンコール曲も3曲熱唱して、歌い終える頃には下で見ていた全員が地面の上で仰向けに寝転がっていた。3人に1人が泡を吹いているような?
「そうかそうか。皆、今日も俺の歌声に酔いしれてくれたようだな!おっ、もう5時だ。そろそろお開きとしよう。皆、それじゃあまたな。いい夢見ろよ!」
俺はそう言ってジャングルジムからよっこらせと降りると、いまだに起きてこない同級生達に別れを告げ、家路を急いだ。
*
「校長先生。甲本君の熱唱で、またカウンセリングの生徒が増えてます。不眠、悪夢に悩まされてるそうで……」
スクールカウンセラーの芳根あやかが、ため息混じりに校長の菅井清香に報告した。菅井もまたかと言わんばかりに頭を抱えた。
「また甲本君案件ですか……以前話した時は1人カラオケすると約束してくれた筈なんですが……」
「何とかならないものなんでしょうか?」
「まぁ、我々としても登校拒否児が増えるのは困るんですが……しかし、基本的に学校外に関することは極力関わらないことが望ましいですからねぇ……」
「しかし、誰かがどうにかしないと被害は増える一方です。校長先生、甲本君にまた以前のように話をして下さいませんか?」
「ええぇ……」
自分が通っている小学校の校長室で、校長とスクールカウンセラーが歌う問題児甲本サトシの件について話をしていた。
自分のことが噂になっていることなどまったく気づきもしない甲本サトシは、今日もとんでもない声を轟かせようとしている。
「よう皆!今日も放課後、公園に集合な!」
――END――
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