第三話 逆転劇

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 一時は騒然となった会場だったが、その後のダンスパーティーでようやく落ち着きを取り戻し、人々は楽しく踊りまくっていた。  そんな彼らをテラスから眺めるソフィーネ。  彼女のもとには、かつて「ブスキモ令嬢」と蔑んでいた令嬢たちが次々と祝福の言葉を述べにやってきた。 「おめでとうございます、ソフィーネ様。ああ、なんてお美しい」 「まるで美の女神ですわ」 「そういえばお一人でいらっしゃった時も、どこか高貴な雰囲気を醸し出していましたものね」 「その美しさを保つ秘訣をぜひ教えていただけませんか?」  気付けばサリーの取り巻きたちまで媚びを売りに来ている。  騒動直後にも関わらず、すっかり彼女(サリー)のことなど忘れてしまっているようだ。  見た目や立場が変わっただけで、こうまで露骨に態度が変わるのか。  それがなんだか腹立たしかったが、ソフィーネはそのすべてに笑顔で対応した。    そしてようやく祝福の列が途切れた頃、リチャードがグラスを手にソフィーネの元へとやってきた。 「疲れたかい?」 「ええ、少し」 「君にとってはトラウマとの戦いだったからね」 「でもおかげで乗り越えることが出来ましたわ」  リチャードは「ふふ」と笑ってグラスをテラス脇のテーブルに置いた。 「やっぱり思った通りだ」 「なにがですの?」 「君は誰よりも強くて美しい」 「死のうとしてた女ですよ?」 「でも生きている。それだけで強い人間だ」  ソフィーネは母の言葉を思い出していた。 「どんな時でも笑顔を絶やさず前向きでいなさい。笑顔で前を向いていれば、向こうから幸せがやってくるわ」  本当にその通りだと思った。  ブスキモ令嬢と呼ばれていた頃のように下を向いていたら、きっとこんな未来はやってこなかった。  笑顔で前を向いていたからこそ、素敵な男性に巡り合えた。  ソフィーネはリチャードの胸に飛び込むと、ささやくように言った。 「リチャード様、ありがとう。私、いまとても幸せです」 「僕もだよ」  二人は顔を見合わせ、そして唇を寄せ合った。  顔を寄せ合う彼らの背後では、楽しく踊る貴族たちのダンスがいつまでも続いていた。 fin
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