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そんな彼女が初めてスターレン家の一員として社交界に顔を出したのは、彼女が養女になって2年目の冬である。
亡き母の形見のドレスを身に纏い、義理の妹サリーに連れられてパーティー会場の扉をくぐった。
はじめはニコやかな笑みを浮かべていた出席者たちも、ソフィーネの姿を見るなりギョッとした。
「なあに、あれ」
「浮浪者でも迷い込んできたのかしら?」
「汚らしい顔ね」
ドレスは綺麗だ。
しかしそれを着ているソフィーネの顔が汚すぎる。
出席しているほとんどの令嬢が扇子で口元を隠しながらヒソヒソと言い合っていた。
そしてつけられたあだ名が「ブスキモ令嬢」だった。
当然、そんな彼女をダンスに誘う者などいるはずもなくソフィーネは常に壁の花と化していた。
「あれじゃあ“壁の花”じゃなく“壁のブタ”ね」
そう揶揄されることも少なくなかった。
我慢ならないのはサリーだ。
こんな風に言われているのが、義理とはいえ自分の姉なのだ。
「この一族の面汚しが!」
そう言って裏ではソフィーネの頬を何度も引っ叩いた。
「あんたの顔がみすぼらしいから、私まで恥をかくじゃない!」
「ご、ごめんなさい、サリー」
ソフィーネは頬をぶたれながら何度も謝った。
「ほら謝りなさい! もっともっと謝りなさい! こんな顔で生まれてきてごめんなさいって!」
「こ、こんな顔で生まれてきてごめんなさい……」
「せっかくお父様が拾ってやったのに、こんな役立たずとはね!」
せめて同等の貴族と縁談を結べれば。
そういう思いもシューベル男爵には微かにあったが、それも望み薄だった。
これだけ見向きもされない女など、誰が欲しがるものか。
「あんたから声かけなさいよ」
「え?」
「誰も声をかけてくれないなら自分からダンスに誘うしかないじゃない」
女性の方からダンスに誘う。
貴族社会ではないこともないが、それはかなり身分の高い者か仲の良い者同士の場合だけであり、一般的にはマナー違反とされている。
その為、ソフィーネは抵抗した。
「で、出来ません、そんなこと……」
「やるのよ。でなければ一生うちの門はくぐらせないわ」
従わないわけにはいかなかった。
彼女は渋々、一人の若い貴族に声をかけた。
「あ、あの……い、一曲……踊っていただけませんか?」
若い貴族は一瞬ギョッとしたものの、ソフィーネの誘いに「あ、ああ、いいよ」と言って手を取った。
しかしダンスは散々だった。
普段からダンスなどたしなんでいないソフィーネはもちろん、若い貴族もダンスに不慣れで互いにギクシャクしていた。
当然、巻き起こる嘲笑。
若い貴族は腹を立て、「やってられるか!」とソフィーネを突き放して去って行った。
サリーは一気に不機嫌になり、以降彼女からダンスに誘わせようとはしなくなった。
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