76人が本棚に入れています
本棚に追加
それからというものソフィーネは社交界パーティーには強制的に参加させられるものの、ダンスに誘われることはなく、常に浮いた状態だった。
綺麗に着飾った令嬢たちに比べて一層見劣りするソフィーネ。
サリーも仲の良い令嬢たちと談笑しながら、彼女を馬鹿にしていた。
「いつ見てもみすぼらしいですわね。髪なんかボサボサで」
「手なんてご覧になりまして? カサカサでひび割れてましたわよ?」
「ほんと、ブサイクで気持ち悪いわね。サリーさん、あなた一緒に暮らしていて平気なんですの?」
「平気なわけないじゃない。屋敷のことなど何一つやらない役立たずですもの」
家事全般を押し付けているにも関わらず、サリーは息を吐くようにウソをつく。
「お父様が拾ってくれたから路頭に迷わずに済んでるのに、その優しさにつけあがって屋敷ではやりたい放題。この前なんてお母様の紅を勝手に使って遊びに行ったのよ」
「まあ。なんて図々しい女なんでしょう」
「サリーさん、困ったことがあったら何でも言ってくださいましね。わたくしたち、あなたの味方ですから」
「みんな、ありがとう」
実際、母の紅を使って遊びに行ったのはサリーのほうだったのだが、それがバレるやソフィーネのせいにして難を逃れた経緯がある。
それをうまく話題に利用したのだった。
「それにしても、どうして毎回パーティーに参加してくるのかしら。誰からも誘われないのに」
「もしかして、パーティーが終わったあと裏でいろんな男と遊んでるんじゃないの?」
「ああ、そうかもしれませんわね。自分からダンスに誘う尻軽女ですもの」
ほほほ、と笑い合う令嬢たち。
その言葉にサリーは面白いことを思い付いたとばかりにニヤっと笑った。
その日のパーティーが終わると、ソフィーネはいつものようにサリーに連れられて御者が待つ馬車のところへと向かっていた。
館の裏手、草むらの多い場所に差し掛かった時、ソフィーネは何者かに口と手をふさがれて壁に追いやられた。
そこにいたのは、数人の男たちだった。
「な、なにをなさるの!?」
男たちの顔は見たことがあった。
今夜のパーティーに出席していた若い貴族たちだ。
中には先日、彼女が無理やりダンスに誘った男もいる。
彼らの背後からサリーが「ふふふ」と笑いながら顔を出した。
「お姉さま、いつも殿方からダンスに誘われないでしょう? さすがに可哀そうだと思って私のほうから彼らにお願いしましたの。お姉さまとダンスを踊ってくださいませんかってね」
「ど、どういうこと?」
「まあダンスと言っても腰を振るダンスのほうですけれどね。でもまったく踊れないお姉さまにはちょうどいいと思いません?」
「サリー、あなた……!」
言いかけようとした口をグッと押さえつけられる。
ソフィーネの細い腕では男の腕力には到底かなわなかった。
「サリー、本当にいいのか?」
若い男の一人が声をかける。
「もちろんよ。あなたたちの性欲処理女として好きにしてちょうだい。その代わり……」
「ああ。お前んとこの事業に出資しろって話だろ? おやじたちに言っとくよ」
「でもこんな女に欲情できるかなぁ」
「顔を隠しときゃいいだろ。これでも一応女なんだ」
下卑た笑いがソフィーネの耳をつんざく。
(い、いや……!)
男たちはソフィーネの着ているドレスをビリビリと破くと、いやらしい手つきでむき出しになった肩を掴んだ。
ふと彼らの気が緩んだ瞬間。
ソフィーネは渾身の力で男の股間を蹴り上げた。
「げふうっ!」
股をおさえてうめく男。
その隙にソフィーネは男たちの手から逃れると、一気に街の方へと駆け抜けていった。
「何してるの、追って!」
背後からサリーの声が聞こえてくる。
ソフィーネは無我夢中で夜の街を駆けて行った。
最初のコメントを投稿しよう!