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(この人たちはいったい何者なんだろう)
ソフィーネは改めて彼らを見つめる。
どう見ても普通の市民ではない。
けれども、貴族のパーティーでは見たことがない。
もしもこんな美男子が参加していたら、それこそ大騒ぎになっているはずだ。
「あ、あの……」
ソフィーネは思わず声をかけた。
「ん?」
吸い込まれそうになる綺麗な瞳に、ソフィーネはドギマギしながら頭を下げた。
「お、お礼を言うのが遅くなりました。助けてくださってありがとうございました」
「いや、助けられてよかったよ。死なずにすんでくれてありがとう」
ニコッとほほ笑む青年に、ソフィーネは(なんていい人なんだろう)と思った。
「それよりも、もう帰るところがないんだろう? しばらくここに滞在するといい。このトンプスキン・ダンベルはこの国で一番の金持ちだから、いつまででもいていいよ」
トンプスキンと紹介された中年の男性は「ちょっと殿下、また勝手に」と慌てふためいた。
「殿下?」
ソフィーネが眉を寄せる。
トンプスキンはさらに慌てふためいた。
「あ! いや! えーと……殿下ーじゃなくて、カーディガン! カーディガンでもいかがですかな? お寒いでしょう」
そう言って侍女にカーディガンを用意させる。
特に寒くはなかったが、ソフィーネはその厚意に甘えた。
そんな彼の行動に、青年は「クックックッ」と楽しそうに笑う。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はリチャード。見ての通り普通の市民だよ」
どう見ても普通の市民ではなかったが、聞くに聞けない雰囲気だった。
「初めまして。私はソフィーネと申します」
「この屋敷は僕の別荘といったところかな」
人懐っこい笑顔でそう言うと、すかさずトンプスキンが訂正した。
「わ・た・しの屋敷です」
「いいじゃないか、僕の別荘って言っても」
「勝手に自分のモノにしないでください」
そんな二人のやりとりを見て、ソフィーネは思わずプッと笑った。
「クスクスクス」
彼女が笑ったことで、ようやくトンプスキンもリチャードも顔を見合わせて笑みを浮かべた。
「よかった、ようやく笑ってくれたね」
「ありがとうございます、リチャード様。トンプスキン様」
ソフィーネは心から感謝した。
こうやって心から笑ったのはいつぶりだろう。
「安心しましたぞ。先程までこの世の終わりのような顔をしておられましたからな。リチャード様がおっしゃってたように、しばらくこちらに滞在してください」
「あれ? やっぱりよかったんじゃないか」
「リチャード様が勝手に決めるのがよくないのです!」
リチャードとトンプスキンのやり取りを見て、ソフィーネはまたクスクスと笑ったのだった。
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