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そんなある日のこと。
数日ぶりにリチャードがやってきた。
「やあソフィーネ。元気かい」
「リチャード様、ごきげん麗しゅう」
スッと頭を下げるソフィーネ。
彼はアハハと笑いながら手を振った。
「そんな固い挨拶はやめてくれっていつも言ってるだろう? 僕がそういうの苦手だって知ってるくせに」
「うふふ、そうでしたわね」
何度か会話をするうちに親しくなったソフィーネは、次第に彼が来るのが待ち遠しくなっていた。
誰もが振り向くほどの美青年。
しかしその心は無邪気で幼く可愛らしい。
そんな彼が、今日は身なりの良い一人の男を引き連れている。
「実は今日、君に話があって来たんだ。どこかで話せないかな? もちろんトンプスキンも一緒に」
「わたくしに?」
「大事な話だ」
応接室に通されたソフィーネは、リチャードとトンプスキン、そしてもう一人の男と向かい合って座らされていた。
「い、いったいなんですの? わたくしにお話というのは……」
言いながらソフィーネは内心緊張していた。
まさかシューベル男爵が自分の居場所を嗅ぎつけたのではないだろうか。
それでリチャードやトンプスキンに私をかえせと圧力をかけてきたのではないか。
だとしたら自分はもうここにはいられない。
楽しくて幸せだったここの生活も終わってしまう。
すっかり青ざめた顔をしたソフィーネを見て、リチャードは言った。
「ああ、大丈夫。安心して。君が想像してるようなことじゃないから」
「え?」
「実は今日連れてきたこの人、王家御用達の弁護士さん」
「お、王家?」
王家とはあの王家だろうか。
それともオウという名の有名な金持ちなのだろうか。
ソフィーネはわけもわからずリチャードとその男を見比べた。
「以前ソフィーネが言っていたことが事実だったかどうか、調べてもらっていたんだ」
言われてソフィーネは出会った時のことを思い出していた。
シューベル男爵での仕打ちの数々。
パーティー会場で襲われそうになったこと。
逃げる途中、橋の欄干を飛び越えて死のうと考えていた自分。
改めて思いなおすと、目の前のリチャードは本当に命の恩人であり、自分をこの屋敷に住まわせるよう進言してくれた大恩人である。ますます頭が上がらない。
しかし当の本人はそのことなどまったく気にしていない様子だった。
「調査結果を聞いて驚いたよ。本当にその通りだったなんて」
リチャードは憐れみの目を向けてソフィーネに言った。
「むしろもっと悲惨な目にあわされておいででした」
弁護士と紹介された男は、スッと立ち上がると、ソフィーネに名刺を渡した。
「申し遅れました、わたくし王家の弁護団の代表を務めておりますレオ・マクウェルと申します。どうぞお見知りおきを」
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