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1. 月
夜も更けた0時過ぎ。
フラフラとした足取りでグラスと小瓶を手にバルコニーに出ると、闇が光輝を放っていた。
「綺麗……十三夜? 檸檬みたい」
思わずフフッと笑う。
真っ暗闇にぽっかりと浮かぶ、輝く檸檬。むんずと掴んでギューッと絞れば、この炭酸が抜けきったハイボールも美味しくなりそうだ。
そう思って手すりの先へ身を乗り出すように、闇に向かってグーッと右手を伸ばすと、足元がふわっと浮き上がる。その浮遊感はまるで私を攫ってくれるかのようで、思いを叶えてくれるかのよう。
それなのに――
「やめておけ」
その人は一瞬で私を捕らえた。
静けさの邪魔をせず、夜と共にあるかのような深く穏やかな声。
光輝を浴びて銀色に輝く髪を靡かせた、美しい容姿の男性。
その人が、私の身も心も捕らえて離さない。
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