天の塔

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コンコン 再び扉を叩く音。とりあえず武器になりそうな椅子を手にとって、扉の前まで近づく。扉ののぞき穴から外を見ると、そこには先ほどの管理人が立っていた。 ゆっくりと扉を開くなり、 「少しは休めたか?」 と聞いてきた。 「えっとまあ……」 「それは良かった。基本この塔では好きに過ごしてもらっていいんだが、一応ここのルールだけ早めに伝えとこうと思ってな。……ん? その椅子はどうしたんだ?」 「えっ? あ、これはお気になさらず」 何かあればこれを叩きつける予定でした、とは言えず笑って誤魔化す。 それにしても先ほど別れてから少ししか経ってない気がするのだが……仕事は早く終わらせたいタイプだろうか。まあしかし塔の情報はなるべく欲しいため、聞くと伝えて部屋に鍵をかける。 「よし、じゃあ歩きながら説明するぞ」 「はい」 「と言っても、大したことはないんだが……この塔のルールは2つ。1つ目は、番号の振られた部屋には自分の部屋以外入ってはならない。2つ目、塔の外で起こったことは自己責任。以上だな」 「なるほど……? 質問いいですか?」 「おう、いいぞ」 「塔の外で起こったことは自己責任、と言うことは、逆に塔内では何かから守られているということですか?」 「ああ、塔の外では勝手に紛れ込んでくる異形のモノやらがたまにうろついててな。まあ、塔内なら危険なものは通してないから気にすることもないが。最近、塔外で異形に捕まったってことはなかったしな」 今の話では、塔の外に出るのはかなりの危険が伴いそうだ。しかし、塔を出れないとなると…… 「……あの、もといた場所に戻るには、どうしたらよいのでしょう?」 管理人は一度足を止め、こちらに向き直る。 「……基本的にもとの場所へ戻ることはできないな」 「えっ、でも……先ほど部屋の空きができたと……! 誰かが塔から抜けたということでしょう?」 「ああー、それは、輪廻に戻ったやつのことだな」 「……輪廻、それは、つまり……」 「ここはもともと、塔が選んだ魂の生前の心残りなんかを昇華させる場だからな。基本的に、現実とこちらは一方通行なわけさ」 「一方通行……」 ――それでは、つまり……私は帰れないってこと……? 立ち止まってうつむく。というか、私はもう現実世界では…… 「……1つだけ。可能性はある」 かけられた言葉に顔を上げる。 「この塔には、もう1つ決まり事があってな。……塔の最上階に到達すれば願いが1つ叶う、というものだ。達成したものがいるかどうかは俺も知らないから、真偽は定かじゃないがな」 「願いが1つ叶う……」 「そこの石版を見てみろ」 示された石版を覗くと、塔の決まりとして確かにそのように書かれていた。 「でも仮に本当だとして、生き返るという願いが叶うかは……」 「ん? 生き返る必要はないだろ。そもそもあんたはまだ生きてる」 「……え? でもさっき生前の憂いを晴らすためって……」 「何故かは知らないが、あんたは生きたまま魂が呼び寄せられたみたいだな。ここじゃ珍しい魂のカタチだ」 再びこちらを向いて、問いかけられる。 「……で? これからどうするんだ?」 何故かは分からないが、可能性がある。それなら―― 「最上階を目指します」 やれるだけ足掻いてみよう。 「……久々に面白いもんが見れそうだな」 男は楽しそうに目を細めた。
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