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目の前が赤く燃えていた。
必死に助けを呼ぶけれど、燃え上がる火になすすべはなく、ただすべてが焼け落ちるそのさまを、見つめていた……
「はぁっ、はぁっ……夢、か」
塔の最上階を目指すことを決めてから数週間が経った。この塔では時の流れが現実世界と異なるため、あくまで私の寝起きした数で計算したものであるが。
「もうよく覚えてないけど、なんかまた夢見が良くなかったな……」
ベッドから起き上がり、塔攻略のために塔内を調べようと扉の取っ手に手をかけたそのとき……
コンコン
扉を叩く音が聞こえる。また管理人だろうかと扉を開くと、
「やあ、お嬢さん! 良い朝だね! ちょっと私とお話」
バタン!
とっさに扉を閉じる。金色のピエロらしきものが扉の前に立っているように見えた。
――これはなんだろうか、夢見が悪かったせいで疲れがまだ取れてないのかもしれない。もう一度ぐっすり眠ろうか。
そう考えて、ベッドへ向かおうとすると、
ドンドンドンドン
扉を強く叩きながら、どうして閉めるんだーと叫ぶ声が聞こえてくる。
「はああ……」
深い溜め息をついて、再び扉を開く。やはり、そこには金色のピエロがいた。
「帰ってもらえませんか」
「なんでだい? どうせ時間はたくさんあるんだ! 少しくらい話したっていいだろう?」
「……ちょっと今、手が離せないので」
「そんなこと言わずに……おや、机に何か――あれはノートかな? 何が書いてあるんだい? ちょっと見せ―」
「勝手に覗かないでください! ほら、早く帰ってください……それとも、自分で取りに行ってみます?」
そう言って、中を指し示す。
「いや……それはやめとくよ。それにしても……君、やっぱり面白いね」
そう言って楽しそうに扉の前に座る。
「お嬢さんは扉の中でいいからさ。他人の部屋に押し入って地獄行きは流石の僕でも嫌だからね。安心して。ちょっとだけならいいだろう?」
なおも押し黙る私に、
「お嬢さんは塔のことを調べてるんだろう? 私はここにいる時間が長いからね! 少しは有益な情報を渡せるかもだよ?」
畳み掛けるようにピエロは言葉をつなぐ。
「お嬢さんは塔の最上階を目指してるとか? もし少しお話してくれたら、それにも多少なら手を貸せるかも」
――見た目で人を判断するのは良くないが、怪しさ全開のこのピエロを信じても良いものだろうか。でも、塔の情報は欲しいし、部屋の中は安全、か……
管理人曰く、他人の部屋に入ったものはいかなる理由があろうとも、即地獄へ送られるのだとか。
「……じゃあ、少しだけ」
椅子を近くに寄せて座り、そのピエロと向かい合う。
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