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歩きながら、先程あったことを振り返る。
突然部屋に押しかけてきた金色のピエロは、話がとても長かったが、代わりに有益な情報も渡してくれた。
――それにしても、話長かったなあ……どこがちょっとだけなんだか
思い出すだけで気が遠くなりそうで、すぐさま思考を切り替える。
――このあたり、かな
目的の場所の近くまでやってきたので、一度立ち止まりあたりを見回す。ピエロが言うには、塔の最上階に行くキーになる人物がこのあたりにいるとのことだが……
「あれ? お姉ちゃん、どうしたの?」
声をかけられて振り向くと、そこには小さい女の子がクマのぬいぐるみを抱えて立っていた。
――――
結局、ピエロの話していた人物は見当たらず、その女の子と話しているうちに、いつの間にか随分と懐かれていた。その子の名前はピアと言うらしく、長くこの塔で住んでいるようだった。
「そっか。お姉ちゃんは最近ここに来たんだね」
「そうだね、ピアちゃんはここにいる間何をしてるの?」
「えっとね、ピアはくまさんと探検したり、あとね門のおじさんと追いかけっこもするよ!」
――門のおじさん……管理人のことだろうか。あまり懐かれるイメージがないけど……
追いかけっこの様子を想像しながら、そうなんだね、と相槌を打つ。
「お姉ちゃんも今度一緒に遊ぼうね!」
「そうだね」
可愛らしい笑顔につられてこちらも微笑む。
――可愛い子だなあ
ほのぼのとした気持ちになっていると、急に、ピアが震えだした。
「ピアちゃん? どうしたの?」
「ちがうの……! ちゃんとピアできるから……行かないで……!」
ピアが何かに縋るように手を伸ばした先は……何もない。
「いやだ……ピアは……」
空中に震えながら呼びかける様子は、ただ事ではない。
――ピアちゃんだけには何かが見えている……? とりあえず、ピアちゃんを引き止めないと、どこに行っちゃうか分からない……!
「ピアちゃん! 落ち着いて! どうしたの?」
「いやだ……どこにも行かないで……」
「私はここにいるよ。どこにも行かないよ。そばにいる」
「そばに……」
こちらの声は届いているようで、声をかけていると徐々に震えが収まり、落ち着いていく。
「……ピアちゃん、何があったの? 話したくなかったら話さなくていい。話したいことだけ、教えてくれないかな」
しばらくするとピアは話し始めた。
「……ピアは悪い子なんだ。ピアは、何もできなかった。他のみんなはちゃんと力を使えたのに。だから、だから……」
……他の人より、普通ならあり得ないような能力を覚醒する人々がいる。彼らは "覚醒者" と呼ばれ、それらの力は遺伝で伝わっていく場合が多い。
――彼女は、"覚醒者" の家系の生まれだったのだろう。
他者より秀でた力は確かに、強力で、魅力的だ。でも……
「それは違うよ、ピアちゃん。他と違うから、力が使えないから、だから悪いなんてことは絶対にない」
「でも、でも……ピアが何も出来ないから、みんなは私を置いてった……私が悪い子だから……」
そう私はそのことをよく知っている。だからこそ――
「力がないことは、悪いことなんかじゃないよ」
何度でも呼びかけよう――
「それでも、力がないままじゃ、あなたの意見を通すことも望みを叶えることもできなくなることだってある。だからね、あなたはあなたの出来ることを磨けばいいんだよ」
「ピアにできることなんて……」
「沢山あるじゃない!さっき歌ってくれたお歌も凄く上手だった。あなたのお陰で私は安らぐことができたんだよ。……それにね、最初から何でもできる人なんていない。これから探して伸ばせばいいんだよ」
「探す……?」
「やりたいことも、得意なことも。人生は楽しんだもんがちだよ?」
そう言ってピアちゃんに笑いかける。
決まった未来なんてないのだから。
この子には笑っていてほしい。
「そっか……そうなんだ。ピアにもまだ……」
すっとピアちゃんは立ち上がり、まっすぐとこちらを向く。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ぱっと花咲くように笑って、そして――
彼女はその場からいなくなった。
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