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「ピアちゃん……? 一体、どこに……」
「無事、輪廻の輪に戻れたようだね」
どこから声が……あたりを見回していると、
「ここだよ、ここ」
声のした方に目をやると、そこにはピアの抱えていたクマのぬいぐるみが……
そう思ったときには、ぬいぐるみと入れ替わるように1人の青年が立っていた。
「あそこまで満たされた魂は、なかなかない。ありがとう」
「……ピアちゃんのことなら、お礼を言うことはないですよ。あれは私のためでもあるから」
「そうか、君がピエロの言っていた子かな。不思議な魂をしている」
その言葉に頷き、これまでの事情を話す。
「最上階に行きたいなら、封じられた記憶を開放する必要があるね」
「封じられた、記憶……」
「ここの人は、塔によって一部の記憶が封じられている。その記憶の内容を昇華できれば、輪廻へと戻れるし、昇華してなお強い意思を持つものには最上階への扉が開かれる」
「その記憶はどうすれば……?」
「私が封印を解くことはできるけど……負担は大きくなるかもしれないよ?」
「お願いします」
「……ここの塔では記憶を乗り越える意思の強さが重んじられる。自分の望みをよく考えるといい」
そう言うと、目の前の青年は微笑んで私の前に手をかざす。
「健闘を祈るよ」
そして目の前が暗くなっていった。
―――
記憶が蘇る。
あの日、屋敷に帰って私を待っていたのは、
焼け落ちる屋敷、そして……家族。
何も持たない私を受け入れて、大切にしてくれた家族。
何よりも、かけがえのない、命に変えても守りたかったはずなのに。
守れなかった……
……それでも家族は、私が前に進むことを望むだろう。
ならば、私の望みは――
目の前に扉が現れる。
私は、取っ手に手をかけた。
―――
「貴方なら、ここまで来ると思っていたわ。ネーシャ」
「母様……? どうして、ここに」
この優しいまなざしは、声は、確かに母のもの――
「私達もここに呼ばれたの……ごめんなさい。貴方にはつらい思いをさせたわね」
「母様が謝ることなんて……!」
「時間が迫っているわね。ネーシャ、私達家族は……そばにはいられなくても、いつでも貴方の味方よ。だから貴方は、好きなことを精一杯頑張りなさい」
徐々に薄れる母の姿に、思わず手を伸ばす。
「いつまでも、愛しているわ」
涙がこぼれる。
今にも消えそうな母の姿に、これがさいごだと嫌でも分かる。
言いたいことも沢山あったはずだけど、
「……ありがとう、私も愛してる!」
さいごは笑って見送ろう。
――そして、私は光の中に包まれた。
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