天の塔

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ふと見上げると、そこには一つの塔があった。あたりを見渡せば周囲は薄暗く、一面焼け野原で、天までそびえ立つ真っ白な塔が妙に鮮明に見える。 ――ここはどこ? 全く知らない場所に、1人だけでいることに困惑する。とりあえず状況を把握しようと、記憶を遡ってみる。確か屋敷に帰ろうと歩いていたはずで……そのあと、…… ズキッ その先を考えようとすると、なぜか頭痛によって思考が遮られる。ここに来てからなんだかふわふわした気分だ。まるで思考がモヤにかかったような…… 「おや、見ない顔だね」 いきなり背後から声をかけられて振り向くと、少し離れたところに男が一人立っていた。男は、右手に長い杖を持ち、灰色の外套を羽織っている。フードを深く被っているため、はっきり顔を認識することはできなかった。 男が少し杖を振ると、離れた距離は一瞬で縮まり、いつの間にか目の前までやってきていた。 「ふむ、新しい "迷い人" かな。……おや、それにしても君、珍しいカタチをしてるね」 「あなたは……あと、それはどういう……?」 「ああ、俺は……ここの管理人ってとこかな。そうだな……こっちに来たばっかじゃかっても分からないだろ。ついてきな、案内する」 一方的に提案するなりさっさと歩き出した男を、戸惑いながらも追いかける。立ち上がり周囲を改めて見渡すと、やはりあたり一面焼け野原で塔以外のものは見つからない。 ――迷い人、か……するとここは "狭間" の一種なんだろうか。でも、"狭間" に秩序は存在しないと聞いた…… 現実世界から少し位相のはずれた、異形のモノたちにより支配される場所を、"狭間 "と呼ぶ。これらの場所には普通、人が入り込むことはないが、ふとした拍子に迷い込んでしまうことがあるのだ。狭間に落ちた人は、異形に食われる、幸運がもたらされるなど、様々な噂がまことしやかに囁かれている。 ――人ならざるものとの会話は、極力避けなければならない。とっさに返事をして、ついてきちゃったのは迂闊だったかな……。でも、なるべくここの情報を手に入れて、早く帰らなくちゃ……! そうしないと、家族がしん…… ズキッ 「痛っ……あれ、また……?」 「おや、大丈夫かい?」 「えっと、はい。少し頭痛がしただけで……あの、ここはどういう場所何でしょうか? あなたはここの管理人、なんですよね?」 「おお、管理人っていうか案内人というか、まあそんなとこだな。ふむ、ここについてか……強いて言うなら、ここは "魂の溜り場" だな」 「……"溜り場" ?」 「なんというか……未練や執着、あとは……後悔や罪の意識、そんな負の感情を抱えた魂を塔がここに招き入れるんだよ」 ――塔が招き入れる……? そんな話、聞いたことがない。それに、負の感情を抱えた魂を呼ぶなら……私はなぜここにいるのだろう? 「……じゃあ、私は塔に招かれてここに来てしまったと……?」 「それは……どうかな? ……でもまあ、ここには塔が認めないと入れないから、そうなんじゃないか。……これから考える時間は沢山あるんだし、塔で過ごしながら考えればいいだろ」 「塔で過ごす……? ちょっと待ってください、それってどういう……」 質問を投げかけようとしたその時、男が急に立ち止まった。何があったかと前を見上げると…… 「ほれ、到着したぞ。"天の塔" だ。」 目の前には、真っ白な塔の門があった。
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