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カウントーー
放送終了と同時に【ON AIR】の赤いランプもパッと消える。途端に張り詰めた空気は揺らぎ、スタッフ総出で片付けとミーティングの準備にスタジオは雑音で溢れ返った。
のんびりしているのは如月くらいだ。
「如月さんお疲れ様でーす」
「皆んなもお疲れさーん」
バタバタするスタッフを労いながらソファーに座る。如月は星型のサングラスをTシャツに戻しながら、着古した上着に腕を通した。深紅が僅かに残る瞳がスゥと黒に変化する。オンとオフの切り替えだが、未だに誰にも気付かれたことはない。
リスナーからのハガキの束を両手に抱えたADの古賀は眉根を寄せて難しい顔をしていた。ラストに紹介された木版のハガキは読んで欲しくないなと思って他のハガキで覆い隠しながら如月に渡したものだ。
見た目にもボロボロな木版のハガキ。
それには、住所も名前も悩み相談も全部"赤黒い文字"で書かれていた。クンクン匂いを嗅げば思った通りで鉄臭い。
「ううっ。これ絶対に血文字だ! あーもー! 怖すぎますって……如月さん呪われちゃうんじゃないの? 飄々としてるし相談は軽めの応対だし」
ブツブツ声に出してプルプル震えていると、空のペットボトルをポンッと古賀の頭に乗っけた如月が口の端を上げてみせる。
「リスナーに好かれたり呪われたりは、パーソナリティ冥利に尽きるってもんでしょー? ふふ。同類だしそれはないと思うなー」
「はぁ!? 何ですか同類って。真面目に心配しているんですけれどね、如月さんッ」
如月の手はペットボトルを退けて、代わりによしよしと古賀の頭を撫でた。
「心配性な古賀ちゃんにしつもーん。不老不死の薬があるとして、その効果はどのくらいだと思う?」
「え……また突拍子もないことを」
答えにならない応えをしようとして、古賀は少し戸惑った。斜め上にある如月の顔は、入社当初から全く同じ。数年経っても老いによる変化なんて微塵もない。
「え…と。不老不死が本当なら、老いず死なずがずーっとのびるんじゃないですか? その薬の効果」
答えに迷い、何となく言い淀んでしまう応え。
「だーよね! だから心配いらないんだよ、古賀ちゃん。今週もお疲れさーん」
笑顔なんだか苦笑なんだか。
ヘラッと柔和な顔をする如月は、空のペットボトルをゴミ箱に捨てるとそのままスタジオから出て行った。
古賀は目を瞬く。
騒然とした熱気は、ドアをすり抜けた外からの湿った冷気が平穏に戻した。(終)
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