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カウント①
ーーガーッーーププッーー……
さぁて、今夜のお題は『のびる』ー!
のびるお喋りに、のびる夜更かし、お悩み相談のコーナーも時間いっぱいまでのばしちゃおっかなー? なーんて言ってたら、ふふっ、スタッフ達が激オコだね。
はーい、それでは残り3通は……紹介できるかな!? 次のおハガキー。青森在住の匿名希望さん。
【ラーメンが大好きで大盛りをよく食べますが、どんぶりの底に沈む麺がぶよぶよにのびてしまって困ってます。どうしたら美味しく食べられますか?】
なるほどねぇ。麺の硬さや食感は好き嫌い分かれるところー。口から喉に啜るための吸引力を鍛えるっきゃないかなって僕は思うけれど……うん! 如月は匿名希望さんを応援してまーす!
ラス2ー、東京都在住のまぽわぽんさん。
【ウチの小型犬(命名:ぽて)のトリミング時期に困ってます。今だ! と思って春先に切っても、今度こそ! と初夏に切っても真夏には毛がモッサリ。庭の雑草と同じレベルでのびます。どうしたら良いんでしょうか?】
あはは。迷ってると時期を逃しちゃう? あるあるー!
雑草と同じレベルなら、草毟りをするのと同じく根気強くカットするっきゃないね! こまめに筆を走らせて投稿するよりハサミでちょきちょきカッティング? 根強くいこー。
え、残り時間はあと3分? ラストのハガキに行きまーす。……富士の樹海在住のろくろっ首さん。木版のハガキもイイネー。
【首を長くして旦那様のお戻りを待っているのですが、一向に来る気配もありません……。「浮気は本気じゃない、君だけを愛している。彼女とは縁を切って戻るから」と仰っていたのに。
待っている間に首がどんどん伸びてしまって、あろうことか私は妖怪になってしまいました。この先どうしたら良いのでしょう?】
妖怪になっちゃったのー? 大変だったねぇ。
首が長ーくのびてしまったのなら、高い位置から見下ろしたときに旦那様の器も見えると思うなぁ。
浮気相手との縁が切れなかった旦那様を待つより、妖怪になった縁を固く結んで自由を感じて欲しいけれどねー。ろくろっ首さんは柵から解放されてもいいんじゃないかな。
ふふ、放送終了時間ぴーったり!
今夜のオールナイトスターも最後まで聴いてくれてありがとねー。パーソナリティ如月がお送り致しましたぁ。みんな来週までバイバーイ。
ーーガーッーーププッーー……プッ……
遂に反応しなくなったポータブルラジオを樹海の湿った土の上に戻すと、のびきった首を触りながら女はクスッと笑った。
「あらあらまあ!心の臓は止まっているのに脈が波打ってるみたい。何年振りの興奮かしら。柵から解放されて自由に……だなんてパーソナリティ如月しか言ってくれないわ。嬉しい」
牡丹の振袖は女には似合わない。わかっていながらも女は着物を身に付けた。
恐らくこれは、夫が浮気相手に贈ろうとしていたものだ。贈ることが出来ないまま倉で埃を被らせていた。
年端のいかない娘に手を出した迷いも後悔も自責の念もあったのだろう。見下ろしてみれば、夫の器は豆粒のようだと女は思った。
ーーその昔。『彼女とは縁を切る』と出て行ったきり戻らない夫と、夫と背格好がよく似た男が水死体で見つかった事があった。当時の女は聴く耳も確かめる目も逸らし素直に夫の言葉だけを信じて待っていた……が、それも今夜までだ。
女は牡丹の振袖を口元に寄せると、歪に尖った犬歯でビリビリと切り裂いた。
浮気も、正気も、長くのびた分だけ切れやすくなる。
愚かな夫だ。
牡丹の花は砕けるように散る。
茎だけ残った相手も私も、引っ張るだけで切れてしまうくらいに見頃を終えた愛なんてものはバラバラに砕けていたのだ。とっくの昔に。
女は自由にユラユラと首をのばす。鬱蒼と茂る木々の隙間に月が浮かんでいた。
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