伸ばすことしかできないポンコツエルフでごめんなさい

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   ◇   ◇   ◇  冒険者を目指すにあたっては、まずそれぞれが職業を与えられる。剣士やシーフ、ソーサラーやビショップといったものが一般的だろう。それに加えて、職業に関係なくそれぞれに固有に与えられる特殊能力というものが存在する。  クリティカル特性が高い剣士もいれば、異常に高い防御値で盾役に特化した剣士がいたりもする。中にはビショップの回復魔法まで使えるというチート級の能力を持つソーサラーがいたりもする。そういった有能な能力の持ち主は引っ張りだこだから、自然とランクの高いパーティーに迎え入れられる。  一方で、いまいち汎用性の低い超特殊な能力しか持たないポンコツもいる。  私なんかは、その代表格と言えるだろう。  職業はエルフ。本来であれば高い知性を元に精霊魔法を使ったり、精霊そのものを召喚したりすることもできる職業にも関わらず、私には一切精霊を使役できない。にも関わらず、特殊能力は《対象物を伸ばす》テヌートという魔法だけ。  当然仲間に入れてくれるような冒険者はおらず、来る日も来る日も冒険者ギルドで来るはずのないオファーを待つだけの、退屈な日々を過ごしていた。  そんな私の前に現れたのが、プレストとラルゴだった。 「もしかして、仲間を探してるのかい?」 「良かったらどんな能力を持ってるのか教えてくれよ」  何度なく繰り返されてきた質問に、ため息交じりに答えた。 「《対象物を伸ばす》……という魔法だけ」 「……伸ばす……それだけ?」  二人は顔を見合わせた後、ぷっと吹き出した。  私は憂鬱な気持ちで、顔を背けた。あとはお定まりのパターンだ。馬鹿にして、笑いの種にして、好き放題弄んだ後はまるで他人みたいな顔をして立ち去る。  残るのは私の心につけられた傷だけ……と思いきや、 「面白そうだね。良かったら僕達と一緒に冒険してみない?」  プレストから発せられた言葉に、私は耳を疑った。 「実は俺達も、ポンコツなんだ。あんまり上手くは行かないかもしれねえけど、それなりに楽しくはやっていけると思うぜ」  プレストの特殊能力は、パーティーの能力に反比例して上昇するという自己バフ。仲間が強ければ強い程プレストの能力は無駄になるわけで、強いパーティーが仲間にしたがるはずもない。  ラルゴも数々の高位の補助魔法が使いこなせると聞けば耳障りは良いけれど、ビショップとして肝心かなめの回復魔法がまるで使えない。同じビショップならやっぱり回復魔法が使えた方がいい、というわけでラルゴも仲間に恵まれない。  そんな二人の赤裸々な告白の上で持ち掛けられた提案は、涙が出る程嬉しかった。  でも私には、簡単には応じられない理由があった。 「……実はね、一度だけパーティーに入れて貰った事があるの」  私を入れてくれたのは数々の高難易度のクエストもクリアしてきた熟練の冒険者達で、風属性Aランクの魔獣アルデリオンの討伐クエストに誘ってくれた。  アルデリオンは首の長い巨大な一角獣で、大きな翼を持っていた。リーダーである剣士は魔力を帯びた希少な剣まで所持していたにも関わらず、宙を舞うアルデリオンを捉えるのは容易ではなかった。一筋縄ではいかない相手に、歴戦の冒険者達も苦戦を強いられた。  あくまで見学するだけ、パーティーの一員としてクエストに参加するだけ、という約束だったにも関わらず、初めての冒険に舞い上がっていた私は、身の程もわきまえず彼らの役に立ちたいと思った。これからも仲間でいて欲しいと言ってもらいたくて、我を忘れていた。 「今だ! テヌートッ!」  アルデリオンが飛び上がろうとするタイミングを狙って、私は唯一の魔法を唱えた。空を切ったはずのリーダーの魔法剣が伸び、アルデリオンの胸に突き刺さる。アルデリオンの巨体が揺れ、地面の上に轟沈した。私の魔法がAランクの魔獣を討伐する決め手になった……までは良かった。  問題は、その後だ。 「ポンコツのくせにどうして勝手な事をしたの!」 「消耗させた後で仕留める作戦だったのに!」 「どうしてくれるんだよ! もう二度と手に入らないかもしれないんだぞ!」  屋根よりも高く伸びた希少な魔法剣が元の長さに戻る事はなく、私は罵詈雑言の集中砲火を浴びた上、ゴミを捨てるように元の冒険者ギルドへ帰された。  それが私にとって最初で最後の冒険になった――。 「……だから、私なんかが一緒にいても楽しいどころか、きっとあなた達の迷惑になるばかりで…………って、おい」  感傷に浸りながら涙目で説明していた私は、目の前の男二人がプークスクスと笑いを堪えるあまり震えているのに気付いた。 「わっはっはっ! ごめんごめん!」 「魔法の剣伸ばしてそのまんまかよ!」 「笑いごとじゃないわよ! すっごい落ち込んだんだからね!」 「……まぁ、いいじゃないか」  ひとしきり笑った後、プレストは満面の笑みで私の肩を叩いた。 「やっぱり、キミみたいな人がパーティーにいてくれた方が楽しいと思う。改めて僕達の仲間になってくれないか」 「……へ?」 「俺も歓迎するぜ。こう見えて馬鹿馬鹿しいのは大好きなんだ」  パチリとウインクするラルゴ。馬鹿馬鹿しいってどういう意味だよおい、と引っ掛かりつつ、でも悪い気はしなかった。 「じゃあ、その……よろしくお願いします」  立ち上がって頭を下げる私を、プレストとラルゴは拍手で受け入れてくれた。  その日から、私は彼らの仲間に加わったのだ。
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