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祖父の夢
その晩、陽菜は祖父の夢を見た。引越しで祖父の話題が何度も出たからかもしれない。
幼い陽菜はさっきの公園のブランコのそばの、ペンキで黄色く塗られた木のベンチに座っていた。陽菜の両側には和服を着た大人の男女が座っている。古びた木綿の、かなり色褪せた着物姿だ。小さな陽菜が二人を見上げるが、彼らは無表情のままただ前を見ていた。
やがて祖父が通りから公園の陽菜たちの元にやって来た。
祖父は陽菜の両側の男女に何か言うと、陽菜を立たせて手を繋ぎ、公園の外へと歩き始めた。
残された男女が気になって陽菜が振り返ると、ベンチにいたはずの二人は消えていた。
そこで陽菜は目が覚めた。
(今の夢はなに?)
陽菜はベッドに身を起こす。怖くはないが、不思議な夢だった。
そのまましばらく、カーテンの隙間から入ってくる月明りをぼんやり眺めていた。
(えっ、なに?)
天井からカタカタと何かの動く音が聞こえてきた。
しばらくその音は続いていたが、やがて静かになった。
(ねずみ?)
木造の日本家屋、十年留守にしていた家だ。ねずみがいてもおかしくないのかもしれない。
二階は三つの部屋が南向きに並んでいて、一番奥が両親、真ん中が弟、そして一番西側が陽菜の部屋になっていた。
(皆気づいたかな? 朝になったらお父さんに言おう)
そう考えて陽菜はベッドに横になった。
引越しの疲れもあり、すぐに寝息を立てて眠っていた。
翌朝、一階に下りていくと、母が陽菜達の朝食の支度をしていて、父だけは食事を終えてコーヒーを飲んでいた。
「おはよう」
陽菜が声をかける。
「陽菜、おはよう」
「おはよう、よく眠れたか?」
子供達は春休みだが、父は早速今日から本社に出勤だった。陽菜は父の向かいに座って答える。
「うん。でも、ねずみかな? 夜、天井裏がうるさくなかった?」
「気付かなかったな」と父が暢気な声で言う。
「あなたは横になったらすぐ大きないびきをかいていたからね」
母が目玉焼きを陽菜の皿に移しながら笑った。
「お母さんは気づいた?」
「ええ。カタカタ音がしてたわね。ねずみなら嫌よねえ」
母が言った。
「続くようならねずみ駆除剤でも置くか」
そう言うと父が出勤のために立ち上がったので、陽菜はトーストにバターを塗りながら、「いってらっしゃい」と声をかけた。
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