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幼馴染
名前を呼ばれて、陽菜は驚く。
「はい。そうです」
「やっぱり。小さい頃の面影があるもの。覚えてない? あなたの幼馴染の涼の母よ。いつも涼君ママって呼んでくれてたわよね? お母さんはお元気?」
「はい。元気にしています」
母とも知り合いなんだと陽菜は警戒心を解く。
「涼もいるのよ。呼んでくるわね」
そう言うと、陽菜が何か言う前に玄関の中に入っていった。
すぐに戻ってきた女性の後ろには、背の高い、陽菜と同年代の男の子が立っていた。
「陽菜ちゃん」
その子は陽菜を見て、さっと顔を曇らせた。
ブラウンに近い髪の毛と整った目鼻立ちのとても綺麗な男の子だ。
陽菜もその子を見て、幼い頃のことを少し思い出した。五歳の頃、この庭でこの男の子、涼と遊んだ記憶があった。
陽菜が涼とぎこちなく互いの近況を話している間に、涼君ママが紅茶を淹れてくると家に引っ込んだ。
自分の母親がいなくなった途端、涼はすごく怖い顔をして陽菜に言った。
「なんで帰ってきた?」
「えっ?」
陽菜は戸惑った。
「ここに来ちゃだめだ。帰れ」
どういう意味? そう聞こうとした所で、涼君ママが戻ってきたので二人は黙った。
涼君ママが庭に置かれた小さなテーブルに、ティーカップを三つとティーポット、それにクッキーを盛った皿を置いた。そして玄関脇にトレーを起きに行くと、その一瞬の間に涼は陽菜の耳元で囁いた。
「絶対、ここで出されたものは食べても飲んでもだめだ」
そう言われて陽菜はびっくりして涼を見る。その言葉で過去の記憶がまた少し蘇った。“いじわるりょうくん”のことを……。
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