馬之助と熊

10/14
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「そうさ、アンタだって食べ物がなけりゃあ、あれをとって食えばいいでねぇか。俺らだって山に食べ物がないものだから、仕方なくそうしてるんだ」  馬之助さんは始め、相手が熊であることを忘れて、この言い分にふき出しそうになりましたが、最後まで聞いてから思いなおしました。  そして、熊にもわかるように説明(せつめい)を始めます。 「でも、人間どうしでは、そうはいきません。  さっきも言ったように『やくそく』がありますから。他人のものをとってはいけないという『やくそく』が」 「とったらどうなるだ? 」 「さっきも言ったように、(ばつ)を受けることになります」  熊は何だかわからないといった顔で聞いていましたが、それでも、 「どのみちオメエは無事(ぶじ)でいられねえ。今ここで俺にやられるか、人のもんとって『ばつ』を受けるかどっちかだ」 と、怖い顔で馬之助さんにくってかかります。 「それはそれで私も困ります。お気持ちはわかりますが、今日のところは見のがしていただけませんか? 」 「なして見のがす? 俺さ何の得にもなんねぇでねぇか。  だいたい、山ん中さ食べ物がなくなったのは、人間が実のなる木を切って、実のならねぇ木ばっか植えちまったからでねぇか」 「そうでした。それをやったのは私ではありませんが、その人たちになり代わって、おわび申し上げます。このとおりです」  熊の言い分には馬之助さんも心あたりがありましたから、何も言いかえすことができず、ただただ、あやまることしかできません。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!