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「そうさ、アンタだって食べ物がなけりゃあ、あれをとって食えばいいでねぇか。俺らだって山に食べ物がないものだから、仕方なくそうしてるんだ」
馬之助さんは始め、相手が熊であることを忘れて、この言い分にふき出しそうになりましたが、最後まで聞いてから思いなおしました。
そして、熊にもわかるように説明を始めます。
「でも、人間どうしでは、そうはいきません。
さっきも言ったように『やくそく』がありますから。他人のものをとってはいけないという『やくそく』が」
「とったらどうなるだ? 」
「さっきも言ったように、罰を受けることになります」
熊は何だかわからないといった顔で聞いていましたが、それでも、
「どのみちオメエは無事でいられねえ。今ここで俺にやられるか、人のもんとって『ばつ』を受けるかどっちかだ」
と、怖い顔で馬之助さんにくってかかります。
「それはそれで私も困ります。お気持ちはわかりますが、今日のところは見のがしていただけませんか? 」
「なして見のがす? 俺さ何の得にもなんねぇでねぇか。
だいたい、山ん中さ食べ物がなくなったのは、人間が実のなる木を切って、実のならねぇ木ばっか植えちまったからでねぇか」
「そうでした。それをやったのは私ではありませんが、その人たちになり代わって、おわび申し上げます。このとおりです」
熊の言い分には馬之助さんも心あたりがありましたから、何も言いかえすことができず、ただただ、あやまることしかできません。
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