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「なぁに、頭なんぞ下げてもらっても何にもならねぇ。腹はふくれねぇ」
熊は納得がいかず、その場でじだんだをふんでまくしたてました。
ふと、馬之助さんは何かを思いついたような顔をして、それからまた、熊に話しかけました。
「それでしたら、どうでしょう、今ここでというわけにはいきませんが、明日の朝、食べ物をお届けするというのは? 」
突然の申し出に、熊もじだんだをふむのをやめて、馬之助さんの目をじっと見つめます。
「何? だがオメエ、食うもんがねえんでなかったか? やっぱり俺あ信用できねぇ。オメエさ帰すわけにはいかねえな」
あわてたのは馬之助さんです。ここまできておいて、みすみす熊にやられるなどまっぴらごめんです。
「まぁお待ちなさい!! そうではありません!
私が食べるためのものを村の人は分けてはくれないでしょうが、他でもない、あなたが食べる分だと、ちゃんと説明さえすれば、村の人はきっと食べ物を分けてくれるでしょう」
「どういうこったか、俺にはさっぱり分からねぇ話だ」
分からないといいながらも、熊の声色は、さっきとはうって変わって落ち着いています。
「お分かりにならなくても、人間とはそういうものなのです。納得さえすれば、損も承知で動いてくれます」
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