馬之助と熊

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 次の日の新聞(しんぶん)の夕刊では、 ─ 農作物(のうさくもつ)()らし、人間をおそう凶暴(きょうぼう)なる熊、ついに(つか)まえらる! 猟師の猪鹿馬之助さん、お手柄(てがら)! ─ と大きく取り上げられました。  山から帰った馬之助さんは、(あせ)をながして一息ついたあと、テレビで今朝の熊のニュースを見ながら、おくさんが用意してくれた『ふきの煮物(にもの)』をはしでつつき、今日一杯目のビールを、のどを鳴らして美味(おい)しそうにごくごくと一息に飲みほしました。  馬之助さんが二杯目(にはいめ)のビールに口をつけるころには、テレビではもう馬之助さんのニュースはとっくに終わっていて、かわりに、東京でおこった強盗事件(ごうとうじけん)やら、おしょく事件(じけん)やら、どこかの国の戦争(せんそう)やらを次々と(つた)えています。  家の前を通る道に目をやると、まだ花のないセイタカアワダチソウが、風にもまけずにシャンと立っているのが見えました。 【馬之助と熊 ─ 完】
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