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「なぁに、二本足で立っていたら、それは人間か? いや、俺あそうは思はねぇ。猿だって二本の足で歩く時はあるし、俺だって二本足で立つことはできるからな」
たしかに、二本足は人間だけではありません。猿だって手を使うことができますし、熊だって相手をいかくするのに立ち上がって二本の足で立つのですから。
馬之助さんは、内心ではびくびくしながら、熊を怒らせないように慎重に言葉を続けます。
「そうでした。あなたのおっしゃる通り。二本足は人間だけではありません。ですが、ごらんなさい、私はこうして服を着ているでしょう? 服を着ているのは人間だけではありませんか? 」
馬之助さんは、夏の暑い日でも山に入る時はかならず作業着を着ることにしています。
この日は、明るいオリーブ色の作業着を着て、頭には麦わら帽子をかぶっています。
「確かに、服を着るのは人間だけだなぁ。いんや、でも俺あだまされねぇぞ。おめえ、さては猿だな? 猿は悪知恵がはたらくからな。
俺をだまくらかして、俺から木の実のかくし場所を聞き出そうって、そういう魂胆だな? 」
どうやら熊は、馬之助さんのことを猿だと思いこんでいるようです。
このままでは、自分のことをだまそうとしていると思っている熊に何をされるか分かりません。
かと言って、人間が安全というわけでもありませんから、馬之助さんはどうすればいいのか迷っています。
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