馬之助と熊

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 いくら考えても、どちらの方が助かるのに良い答えなのか決心がつきません。  馬之助さんは少し投げやりな気持ちになって、運を天にまかせるつもりで、本当のことを言うことに決めました。 「いえ、それでもやっぱり私は人間です」 「なら、おめぇは人間のことをよぉく知ってるだな? 」 「えぇ、知っています。人間なのですから」 「んだば聞くが、山の奴らはみんな口をそろえて『人間が(こえ)え、人間が(こえ)え』と言うが、俺にあちっとも(こわ)くねぇ。  おめぇが人間だというなら、どうしてみんなが『人間が怖え』と言うか説明できるはずだな? 」  大丈夫。熊はすぐに馬之助さんのことを(おそ)うつもりはないようです。  少しでも長く話をして、すきを見て逃げ出すしか方法はありません。 「それなら、お安いご用です」  そうは言ってみたものの、馬之助さんは人間ですから、動物がどうして人間のことを怖いと思っているのかなど、考えてみたこともありません。  うまく説明できるのか、不安で不安で、心臓が口から飛び出しそうでした。 「人間が怖い理由はねぇ」 「なぁん、(はよ)う言え」 「人間が怖い理由というのはねぇ」 「早う言えて」 「人間が自分では何もやらないからです」  とっさに自分の口から出た言葉でしたが、馬之助さんは言ってから ─ はっ ─ としました。  何もしないのに何が怖いというのでしょう?  『自分では何もしない』そんな人間を動物たちが怖がるはずがありません。
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