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熊は歯や爪をほめられて、少し気を良くしたのか、さっきよりもにこやかに馬之助さんに話します。
「確かに、俺あ鹿を食うのに爪や歯を使ってやるからなぁ。人間さにそんな事はできねぇものなぁ。
なぁんだ、それで山の奴らは『人間が怖え』って言うだな? 」
熊は、山の皆が人間が怖いという理由に、少し納得がいったようですが、それでも、熊自身は人間をちっとも怖いとは思わないようです。
「他にもありますよ? 」
「何? まだあるのか? 」
馬之助さんも熊にこのままやられてはなるものかと、一生懸命に話をつづけます。
「『お金』はごぞんじですか? 」
「あぁ、聞いたことぐれぇはある。何にでも交換できる魔法みたいなもんだろ? 」
「よく、ごぞんじなんですね」
「自慢じゃないが、俺あ、この山で一番の物知りだ。
考えてもみろ、山の動物の中で俺だけとびぬけて頭が大きいんだから」
そう言って熊は、得意そうにぐんと胸を張りました。
「けれども、いくらもの知りなあなたでも、これはごぞんじではないでしょう」
「それは聞かねばわからねえ。言ってみろ」
『知らない』と言われて気を悪くしたのか、熊は不きげんそうに
─ ふんっ
と鼻を鳴らして、馬之助さんの方に顔をつき出しながらそう言いました。
「人間は、その大切な『お金』を、自分では持たないのです」
「何だって? ならどうするだ? 」
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