馬之助と熊

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「『ぎんこう』と言うところがありましてね、そこへ『お金』を持っていって、(あずか)ってもらうのです」 「『あずかる』? そりゃ一体、どういうこった? 」  熊は、自分のきげんの悪いのも忘れて、馬之助さんに聞き返します。 「あなたは集めた木の実を、いつもどうされていますか? 」 「そりゃぁ、もっぱらその場で食べちまうが、あまった分は、他の奴らに横どりされねぇように、かくして、そして守る」  もう、すっかり話に夢中になったようすの熊は、腕組みして、いつもの自分を思い出すように思案(しあん)して、一つ大きくうなづきました。 「人間はそんなことはしない。だれかに(あず)けて、自分の代わりにかくして、守ってもらう」  熊はその言葉にひどくおどろいた様子(ようす)で、目を丸くして馬之助さんにくってかかります。 「そんなことしたら、そいつに横どりされちまうでねぇか? 」 「そんなことはできません。人間には『約束(やくそく)』というものがありますから、その『約束』をやぶれば、大変な(ばつ)をうける」 「へぇ、それはどんな罰だ? 」  熊はまだ、半信半疑(はんしんはんぎ)ではありますが、初めて聞く人間の話にとても興味(きょうみ)があるのです。 「せまい部屋に何年もとじこめられるか、へたをすれば命をおとす」 「そりゃぁ恐ろしいなぁ。山では横どりのしあいだからなぁ。取られたら取られたやつが悪い。そいつの責任(せきにん)だ」
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