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「えぇ、私、『やまもも』と『ふき』が大好物でして、そいつを少しばかりいただいて帰ろうと思いまして」
馬之助さんの話をだまって聞いていた熊でしたが、馬之助さんが話し終えると、頭から湯気を立ててカンカンにおこり始めました。
「バカこくでねえ! ただでさえ、みんな食べるものがなくてひもじい思いをしてるというに、どうしてオメエら人間に分けてやらねばなんねえ? 」
熊がおこるのを見て、馬之助さんは『これはしまった! 』と思いました。
確かに熊のいうことも分かります。でも、馬之助さんも、やっぱり好物の『ふき』や『やまもも』がどうしても欲しいのです。
「いえね、本当に少しでいいんです。でなければ私もひもじい思いをしてしまいます」
熊は、不思議そうな顔で馬之助さんに聞きかえします。
「人間も食べ物がねえのか? 」
「それは人にもよるのでしょうが、私はそうなのです」
その時、少しだけ熊は同情するような表情をみせましたが、すぐに頭を左右にぐるぐるとふってみせて、
「いんや、俺あだまされねぇぞ。里さおりれば、なんば(とうもろこし)やら、なんきん(かぼちゃ)やら、たぁんとあるでねぇか」
「よくごぞんじですね? あぁ、時々、村にきて、なんばやなんきんを盗んでいくのはあなたでしたか」
熊は今度は、少しだけ『しまった』という顔をしましたが、すぐに自分で自分を納得させるように、大きく一つうなずきました。
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