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プロローグ
もう嫌だ! と、ある日とうとう切れたのはダンジョンマスターだった。
「こんな地下洞窟のダンジョンになんてもう居たくない! 狭いし薄暗いし空気悪いし! ほとんどアリの巣じゃないか!」
若くして魔王軍のエリートだった彼は名前をイェルという。元はサラ艶の黒髪美形であった彼だが、今はボサボサの髪で目は落ち窪み、肌もカサついていて見る影もない。
それもこれもこんな不健康な場所に居るからだ! と彼は歯軋りした。
しかし、彼の部下達の反応はイマイチだった。
えー、でもぉー、と間のびした声をあげたのは夢魔のリアだ。
「ここ以外行くとこないじゃん。うちら魔王軍の落ちこぼれだしー。いいとこは他の奴らに取られてるしー」
「そ、そうですよ。それに、ここもそう悪くないですよ。他の人に見られないし……」
ぼそぼそ、と続けたのは牛娘のマーシャだ。たゆんたゆんの胸に手を置いて、肩を小さくしている。ぺたんこ体型のリアと違ってダイナマイトボディなのだが、度重なるセクハラによって男性恐怖症になってしまった彼女にとっては、確かにこの地下ダンジョンは落ち着く場所なのかもしれない。
しかし! とイェルは拳を握りしめる。
「俺は嫌だ! こんな場所で一生を終えたくない!」
「まあまあ。一生なんて短いものですよ。気長に行きましょ」
そんな彼にカタカタと骨を鳴らして笑うのは骸骨騎士のイーハンだ。
イーハンとリアとマーシャ。この三人が今のイェルの部下だった。
呑気な部下達をぎろりと睨みつけ、イェルはもう一度言った。
「俺は! 嫌だ! ダンジョンバトルを申し込む!! というか、もう申し込んできた!!」
部下達のええー!? という驚きと非難のこもった叫び声が薄暗い地下ダンジョンに木魂した。
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