1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
とにかく剣術の稽古が嫌だった。 父に、 「今日から道場で剣の稽古をしてきなさい」 と言われた時は、目の前が真っ暗になった。 剣術よりも書を読む方が好きだからだ。 嫌々毎日道場に通う日々は、とても辛く、どこかでさぼろうと何回も思った。 若い先生が道場にやってきた。 「江戸で一番強い剣士」 と言われており、 (そんなに歳がかわらないのに) とびっくりしたが、一人一人にとても分かりやすく稽古していた。 ある日、数名の者が道場に押しかけてきた際、あっという間にその者達を倒した。 その時の先生は、いつもの穏やかな雰囲気とは違い、鳥肌がたち、足が震えてしまうほどの迫力があった。 その日以来、 (優之進先生みたいになりたい) と思い、真剣に稽古をやり始めた。 家でも竹刀を何回もふっていた。  「武一郎、熱心だな」 竹刀をふる様子を見た父に声をかけられた。 道場でも、 「武一郎君、剣に力がでてきましたね」 と先生に言われて、とてもうれしかった。  道場帰りに先生が、道端に座っているのが見えたので、 「優之進先生」 と声をかけた。 「武一郎君」 と先生は、僕の方を見て、笑顔で言った。 「何をされているのですか?」 と聞くと、 「そこの蓮の花を描いているんです」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!