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「はい、夢咲市役所、町田です!
えっ、ビーバーイーツがない?
はい、もちろん田舎ですからありません。実は私も一度注文してみたいと思ってるんですよ」
「田んぼのカエルがうるさくて眠れない?それは田舎でしか聞けない最上のオーケストラにして、カエル達が人生を賭けて奏でる至高のラブソングなのですよ」
「フリーWi-Fiが使える場所?
24時間営業のコンビニ?
ありません。夕方には就寝してしまうお年寄りばかりなので、需要が全然なくてですね」
海があり山があり川が流れ、空気が美味しい我らが故郷、夢咲市。
人口は市を名乗れるギリギリの約五万人。高速も新幹線も通っていない。一番高い建物は夢咲ロイヤルホテル、堂々たる三階建て。
こんな所だが、市役所には毎日いろんな電話がかかって来る。
もちろん基本的には我々は、皆様の声に真摯に耳を傾け、お役所仕事と言われない様に迅速な対応を心がけているが、市役所をただで使える何でも屋だと思っている人や、ただの暇つぶしやからかい目的で電話をして来る人もいるのだ。
更に、過疎化が進んでいる市としては移住者を募集しているのだが、デリバリーサービスが無い事やネット環境の不満を訴える人もいる。
都会の暮らしに疲れたとわざわざこのド田舎に引っ越してくれたのに、一体どういう感情なのだろう。
中にはふざけるなと怒り出す輩もいるが、文句があるならどうぞ違う田舎を探してくれ。
ここの水が合わないのなら無理をしない方がお互いのためだ。
しかし賭けてもいいが、こんな良い町はどこを探しても絶対にない。なぜなら……
おっ、また電話だ。
ちょっと暑くなって来た。うちわを取り出してパタパタしながら対応。
「はい、夢咲市役所、町田です!
えっ、引っ越しがしたい?」
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