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「実は、三年前にうちの市内にオープンしたショッピングモールなのですが……」
事務の女の子が運んで来たコーヒーに、口もつけずに会長が切り出す。
多分そうだろうな、とは思っていた。
よくある話だ。長い間地元で頑張って来たアーケード街が、他所から現れた大型店舗という大怪獣にぎゃおおんと破壊されてしまう。
お客様をどんどん奪われて、このまま歴史ある商店街を無くす訳にはいかないと会長は立ち上がったのだ。
この辺りのド田舎もとうとう侵略の危機に晒される様になったのか。逆によくぞ今まで無事だったものだ。
「わかります。それで……?」
「はい。こちらの『フラワーズ・マンション』の皆様に、仕事をお願い出来ませんか?」
真剣に困っている人からのSOSなら、本来我々の業務の範囲外の事でも、出来る限りの対応はさせていただく。
義理人情は金より重い。それが我々のポリシーだ。
「承知致しました。お引き受けします」
「ありがとうございます!代金の方は申し訳ありませんが請求書を」
「いえいえ、そちらの商店街の『和菓子の山田屋本舗』さんと『洋菓子の森田』さんから、みんなに美味しいおやつをいただければ」
「それならうちの味噌饅頭も是非!
一ヶ月は無料でお届けします」
「おお、あの数量限定の。それはみんな喜びます。契約成立ですね。村田課長、それでは」
「うん。町田君、宜しく頼む」
そして私は早速席を立ち、市役所の一階にある『フラワーズ・マンション』へ向かったのだ。
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