フラワーズ・マンション

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「みんな、頼みがあるんだが」 ……キイイッ。 一声かけてフラワーズ・マンションの扉を開く。 それは、錆びついた重たい鉄製の……ではない。むしろ軽すぎるほど軽くて開閉が楽なドアだ。そうでないと困るのだ。 ドアノブもよくあるサテンの入ったアルミ製である。 「町田のおじちゃん、お話聞いてたわよお」 1号室から声がする。 今は無き夢咲第一病院から引っ越して来た、ここに十年は住んでいる一番の古株。ゴシップ大好き、大きなお耳は地獄耳の通称『ジャスミンホワイト』。 「んー。あんまり気が進まないわあ」 2号室に住むのは五年前に廃校になった関東の中学校から移り住んだ、食べるの大好きふっくらほっぺのおっとりさん。通称『スイレンパープル』。 「パープル、人をびっくりさせるのは私達の使命よ。今更何言ってるのよ」 3号室には二年前に閉館した関西の図書館から来た、メガネが似合うおしゃれなクールガール『スイセンイエロー』。 「そうデス、コレは田舎を守るタメの戦いなのデース!たくさんオドかしていいデスカー?」 4号室、廃校になった神戸の小学校から去年やって来た青い目の留学生。目立ちたがり屋さんの『ローズピンク』。 「えっへっへー、楽しみだなあ!」 そして5号室、市内の映画館から先日連れてきたばかり。 とにかく元気でお喋り大好き、お目々キラキラの『マーガレットレッド』。 そう。彼女達は住処を無くし、安住の地を求めて引っ越して来た各地のトイレの花子さん達である。この市役所のトイレは彼女達のマンションなのだ。 実年齢は不明だが外見はそっくりなおかっぱ頭の幼女だし、みんな名前は花子さん。しかも間違えると怒られるので、それぞれ違う色のスカートを履いてもらっているのだ。 「あたし達『トイレットフラワーズ』にまかちぇなちゃい!」
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