フラワーズ・マンション

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「……正直、あの頃は嫌いだった。嫌いだと思っていた。 でも今は違う。だから店長を引き受けたんだよ。この町を少しでも暮らしやすい町にしたいから。 でも。昔からあった商店街には迷惑だろうなって、ちょっと悩んでてさ」 『河田君……』 「花子さん、また話を聞いてくれるかい?」 そうさ。 義理人情を無くした田舎なんて、なんの価値があるものか。 ☆ 「課長、本日の成果は以上です」 私は鼻高々に報告をした。 課長は小さな体で椅子にふんぞり返り、腕組みをして私の話を聞いていたが、やがてぴょんと椅子から飛び降り、私の高い鼻を見ながら言った。 「うん、町田君ご苦労さま。 取り敢えずは上手く行って良かった。 だからって天狗になっちゃいかんよ」 「はは、何をおっしゃいますか。 私は元々この町を守る天狗ですよ」 真面目に報告をしたのでやたら暑い。 失礼して懐からうちわを取り出した。 ちなみに課長の身長と見た目の年齢は、だいたい花子さん達と同じくらいである。 東北の方の豪邸で守り神様として大切にされていた存在だったのだが、いろいろとあって百年以上前、この町に引っ越して来たらしい。 「あの様な大型店では何でも店長の思い通りに出来る訳ではない。 だが、お互いに潰し合っては誰も幸せにはならない。これからに期待しましょう。 それに、とりあえずフラワーズの目的は果たせたのだし」 「そうですね」 「町田のおじちゃーん!一緒に食べようよ!」 花子さん達がお菓子の箱を持ってバタバタと走って来た。かわいい。 さて、こんな夢咲市ですが、移住していただける方を募集しています。 こんな良い町はどこを探しても無いと断言出来ます。 なぜならば海があり山があり川が流れ、空気が美味しい所であり。 そして私達が住める、私達が守る町だからです。 なんてね。 分かっています。本当はどんな町も、あなたの故郷には絶対に敵わない事を。 例えば、トイレ一つを取ってもね。
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