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「んー。……どーだった? 涼真とすんの」
軽い口調でいうのが、信じられない。
「……っつ……翼のバカ!!!!」
どうしていいのかわからず、バカな自分への自己嫌悪もあって、叫んでしまった。
「うるさいって、翔。……母さん、もうすぐ帰ってくるし、静かに話そうよ」
そんな風に言われたって、落ち着いてなんて話せない。
「……っ涼真と、つきあって、るの?」
「付き合ってないよ。言ってただろ、涼真。好きな奴の名前をいつも呼んでるって」
「――っ意味、分かんないんだけど……!」
もうすぐ、熱いものが、溢れ落ちそう。視界が滲む。
オレの顔を見て、翼は、ふー、と息をついた。
「オレ、翔が最後まで許すとは思わなかった」
「――――っ……」
「すげえ喘いでたじゃん、翔」
「……っお前の体……だからだろ」
「ああ。まあそうかもね。オレの体、男にされんの気持ち良くなってるからね。中身変わっても、体の感覚は引き継ぐんだなあ。新発見だな」
「……翼!!」
「大丈夫だよ。全部は聞いてないから。本格的に始まってからは、電話も切ったし」
「……っ」
そんなこと言いたいんじゃ、ない。
聞きたいのは……。
何が聞きたいのかも、分からない。
「――――良かったでしょ、涼真とすんの」
「……っ」
「翔、オレほんとのことだけ話すから。ちゃんと聞いてて」
珍しく真面目な顔をする翼に、オレは唇を噛みしめた。
「オレは、涼真じゃなくて別の男が好きなの。で、涼真も、オレじゃない別の男が好きでさ」
「――――」
「オレ達は――――慰め合ってた訳」
「………………っ……」
「翔には分からないかも、だけど……。オレは、叶わない恋が辛くて、SNSで知り合った奴とホテルに行こうとしてたの。二か月位前。そこを涼真に見つかって、咎められて……」
「――――」
「……オレは、涼真が好きな奴のことも知ってたから。お互い、慰め合う?って誘った。オレも知らない奴とやんのはやっぱ腰がひけてたし、涼真がいいならって」
そんなの。全部、全然何も、知らなかった。
「涼真は、ほんとは、辛かったろうけどね」
「――――つ……つばさだって……辛かったんじゃないの?」
全然、気付かなかった。ずっと一緒にいたのに。
……双子の神秘なんて信じてなかったくせに、全部知ってるみたいな気でいて……。
全然……。
「――――……っ」
感極まって、大粒の涙がボタボタ溢れてきた。
すると、翼が苦笑した。
「こんな時に、よくオレの心配とか、するよね……ほんと、翔は……」
「――――っ」
「兄貴だよなー、ほんと……」
……翼の体で、涼真に抱かれるとか、ほんと意味わかんないし。
全然兄貴なんかじゃない。……ほんと、バカだ、オレは。
「オレはほら……知らない奴とヤるよりは、マシだったから。でも涼真は……どんなに似てても、結局本命とは違うからね。辛かったと思うけど」
その言葉が指す意味。
「……涼真の……好きな、奴って……」
「もう、分かるだろ?」
……さっき。
何度も……翔って、呼ばれた。
それが、いまつながった気がする。
でも、それをどう受け止めたらいいのか、分からない。
だったら何で。オレから離れたんだよ。
――――だからオレは、女の子と、付き合ったり、して……。
「さっきさ、涼真にキスされたんでしょ?」
「…………」
何でキスのことなんて……と思いながら、頷くと。
翼は、はは、と笑った。
「オレと涼真はキスしてないんだよ。オレ達二人共、体はいーけど、キスはやめとこっていう、よく分かんない倫理感が合致してさ」
「――――」
もうなんか……良く分かんない。
オレ達は、さっき……すごく、キス、した。
「なあ、何で今日、キスしたの? 翔っぽいって思った?」
「――翼……?」
誰に話してんの? そう思った瞬間。翼の手に、スマホがある事に気付いた。
そして、それが、通話中な事も。翼がスピーカーにした瞬間。
「二人共、うちに来て」
涼真の声が、した。
「分かった。今行くから待ってて」
翼が、涼真にそう言って、スマホを切った。
(2024/5/13)
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