佐々山電鉄応援団 第1巻

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 中学二年生の四月。  父親から予想もしない話を聞かされる。 「従姉妹の愛理ちゃんが、ウチの家族と一緒に温泉に行きたがってるそうだ」  愛理は「えーっ珍しい。愛理お姉ちゃんの方からコミュニケーションを取りたがるのは初めてだよね。麻友は大賛成っ」  最初は、麻友は大喜びしていたが、詳細を調べてからは猛反対を始めた。  家族風呂。貸切湯という特殊な条件。   麻友は、自分のスマホで検索して、そのホテルの公式ホームページを開いた。  ”温泉成分及び衛生上の理由より、入湯の際にタオルを浴槽に浸けないでください。また水着や湯浴み着の着用での入浴はご遠慮ください”の注意書き。  麻友は僕の顔を見て露骨に嫌な顔をしてから「常識的に無理!麻友。中1だよ。お兄ちゃんと混浴は無理」と騒ぎ出した。  僕も嫌だ。学校の水泳を待たずにピンチ。  麻友がホテルに電話をした。  麻友は、電話をしながらホッとした顔になり「女性はホテルが用意した湯浴み着を貸し出すって。持ち込みだけは禁止らしいよ」  電話を切ると麻友は僕に「男性もね。入る時と出るときだけ気を付ければ濁り湯で身体は見えないって」と言った。  通常なら僕は入らないと拒絶する案件。  今回は、従姉妹の愛理の願い事だからだ。  小学6年生の時の添い寝の件もあるが、愛理の考えて居る事は理解不能。もしかしたら愛理が言っていた小湯山基地とやらの新しい情報が聞けるかもしれない。僕は拒むより、小湯山基地の話の続きが気になった。尻切れトンボの続編を知りたい。  仮に、愛理が小説か何かを書いていて、空想の話でも良い。ずーっと気になっていた叔父の家の裏にある小湯山の謎について愛理から何かを聞き出せるなら行くべきだと思った。  僕も愛理に電話を掛けて聞いた。 「優ちゃんは絶対に来るべき。その温泉のホテル雨宮親子が来るよ。好きでしょ。そういうの。愛理が会わせてあげるよ」 「雨宮親子って雨宮教授と京子ちゃん?」 「願ったり叶ったりだよ。絶対に行く」  僕は愛理の温泉に行く計画に賛成した。 「麻友と愛理は、湯あみ着で身体を隠せるけど、優はスッポンポンで入浴だぞ。本当に良いのか?」と両親は僕を心配する。  僕は、そんな事はどうでも良くなった。  温泉旅行というのは、愛理が言うには駅から遠く路線バスも無い高原のホテルだから、僕の家族に何かしらの目的を持たせて自動車を出して貰う理由に過ぎない。 愛理ですら「目的の為の手段よ」と言う。  その時の僕は、自分の一年間で学んだレベルを試せる相手、何よりも憧れていた雨宮親子に会える。それだけが嬉しかった。
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