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フォルダにはゆいが貼ったちいさなシールを貼った白壁が残っていた。いつからここにいたのか分からない、小指大のキラキラしたお星さまシール。私はゆいに気づかれないようにそっとそれを剥がし、携帯ケースに張り付けた。
「じょうずにとれたでしょ!」
「うん、そうだね。ゆいちゃん、そろそろお部屋出ようか」
「うん!」
飲みかけのペットボトルの蓋を閉め、ゆいが大きく頷いた。
からっぽの玄関で靴を履く。飛び出すように立ち上がると、くるりと家の奥へと振り返った。
「おうちさん、おせわになりました! あかちゃんのゆいちゃんのおうち、ばいばい!」
元気いっぱいお辞儀をしたゆいは、とことこと外の廊下へ歩いて行った。
──まだ立ち合い残ってるんだけど……まあ、いいか。
ゆいの生まれて初めてのお引越しが終わる。いつか忘れてしまうかもしれないけれど、その時はまた。小さな左手を捕まえる。ひよこのように暖かい。
私はバッグの中できらめくお星さまシールを、そっとそっと指先でなぞった。
(了)
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