0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「スイカ切ったよ、手洗っておいで。」
庭の水道でサッカーボールを洗っていた少年は、
祖母の呼び声に笑顔で振り向き瞳を輝かせた。
手を洗い、縁側に腰掛けた少年はくし型に切ら
れた大きなスイカを抱え、甘く瑞々しい果実に
かじり付く。
「ねぇお婆ちゃん、何か面白い話して!」
「面白い話?そうねぇ…」
庭の芝生に向かってスイカの種を飛ばす少年に、
祖母は入道雲の浮かぶ空を遠い目で眺めながら
思案を巡らせる。
毎年夏に祖父母宅を訪れる彼の、お決まりの台詞
である。祖父母宅と言っても、祖父は少年が生まれるのと同時期に亡くなっているため六年程前
から祖母がこの庭付きの立派な一軒家を一人で
守っている。
祖母は少年の頭に手を置くと、記憶の引き出し
から取っておきのテーマを手繰り寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!