2人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
5 令和七年 六月二十日
華菜の父親に芽が生えたのは二日前だった。
今朝からは父親は会社へ行かなくなった。
昨日夕方に帰って来てから、ほとんどを睡って過ごしている。
学校も生徒の半数以上が欠席である。
みなスプラウトにやられてしまったのだろう。
授業もほとんどが自習で、今もなにをするでもなくぼーっと雨の校庭を眺めていた。
今日も朝から雨だ。
学校へなど来なくてもいいのだが、何かしらの日常に縋りたい思いで登校していた。
「倉田、お前はまだ芽が出てないみたいだな。安心したよ」
急に後ろから声をかけられた。
ふり向くと部活で陽に焼けた、爽やかな笑顔があった。
「先輩・・・」
露城真吾だった。
「昼飯一緒に喰おうぜ。学食やってないだろうとおもって、アーケードの沢田の爺さんの所で買って来てたんだよ」
そう言って薄い茶褐色の紙袋を机の上に置く。
沢田の爺さんの所とは、アーケード商店街の沢田ベーカリーのことである。
「自販機は動いてるから大丈夫だ、牛乳でよかったよな?」
紙パックの牛乳も二つ添えられている。
袋の中にはチョココロネとあんとホイップクリームがたっぷり詰まったパンが二個ずつ入っていた。
どちらも沢田の爺さんの手作りである。
「わあ、チョココロネ大好きなんです」
華菜は思わず声を上げていた。
「知ってるよ、子どもの頃からいつも喰ってたもんな」
近所に住む露城真吾とは幼馴染で、小さい頃はほとんど毎日一緒に遊んでいた。
小学校の低学年を過ぎた頃から、急に接することがなくなった。
名前で呼んでいたのが、いつしか先輩へと変わっていた。
そして、いつしか華菜は真吾に恋をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!