ゆらぎの芽 ~ グリーン スプラウト ~

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     5 令和七年 六月二十日  華菜の父親に芽が生えたのは二日前だった。  今朝からは父親は会社へ行かなくなった。  昨日夕方に帰って来てから、ほとんどを睡って過ごしている。  学校も生徒の半数以上が欠席である。  みなスプラウトにやられてしまったのだろう。  授業もほとんどが自習で、今もなにをするでもなくぼーっと雨の校庭を眺めていた。  今日も朝から雨だ。  学校へなど来なくてもいいのだが、何かしらの日常に縋りたい思いで登校していた。 「倉田、お前はまだ芽が出てないみたいだな。安心したよ」  急に後ろから声をかけられた。  ふり向くと部活で陽に焼けた、爽やかな笑顔があった。 「先輩・・・」  露城真吾だった。 「昼飯一緒に喰おうぜ。学食やってないだろうとおもって、アーケードの沢田の爺さんの所で買って来てたんだよ」  そう言って薄い茶褐色の紙袋を机の上に置く。  沢田の爺さんの所とは、アーケード商店街の沢田ベーカリーのことである。 「自販機は動いてるから大丈夫だ、牛乳でよかったよな?」  紙パックの牛乳も二つ添えられている。  袋の中にはチョココロネとあんとホイップクリームがたっぷり詰まったパンが二個ずつ入っていた。  どちらも沢田の爺さんの手作りである。 「わあ、チョココロネ大好きなんです」  華菜は思わず声を上げていた。 「知ってるよ、子どもの頃からいつも喰ってたもんな」  近所に住む露城真吾とは幼馴染で、小さい頃はほとんど毎日一緒に遊んでいた。  小学校の低学年を過ぎた頃から、急に接することがなくなった。  名前で呼んでいたのが、いつしか先輩へと変わっていた。  そして、いつしか華菜は真吾に恋をしていた。
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