ゆらぎの芽 ~ グリーン スプラウト ~

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     6 02nd / Feb / 2019  三日前に江本和臣は、ジェニファローゼという十九歳の娘と結婚した。  アマゾンの少数民族〝パキュ族〟の娘である。  父親はドイツの製薬会社関連の人間だったという。  こういった密林地帯には、まだ発見されていない薬の原料になる動植物がいくらでもある。  少数部族の昔からの習慣で服用しているそれらは、使い方によっては画期的な新薬として巨万の富を生み出すこともある。  だから製薬会社関係の人間たちが、こんなジャングルにまで来ることがよくあるのだ。  その父親だというドイツ人は、子どもが産まれてすぐに〝ジェニファローゼ〟と言う名をつけたっきり国へ帰り、再び親子の前に現れることはなかったらしい。  多分国には妻子が居て、彼にとってはここでの出来事は単なる遊びであったのだろう。  文明人の身勝手さを思うと、江本は腹が立った。  純粋で疑うことを知らない人たちへの憐憫の情、それを持つ事さえ不純に感じられた。  生まれた女の子は髪の色と肌の色は母親譲りなのに対し、その目鼻立ちや体型は父親の血を濃く受け継いでおり、白人風のノーブルで整った顔と美しいすらりとした身体つきをしていた。  とても少数民族の娘とは思えないほどの美少女だ。  その瞳の色は、ジャングルと同じ深い碧色をしている。  みんなからは〝ロゼ〟と呼ばれている。  彼が初めてこの美少女を見たのは、彼女が十五歳のときであった。  その奇蹟のように綺麗な姿に驚いたことを、今でも記憶している。  それから四年、成長した十九歳の美しいロゼを彼は妻とした。  いま二人は、小さな滝つぼの裏側に居る。  密林の奥深くに隠された、部族の者以外に立ち入ることの許されていない神聖な場所だ。  この集落に腰を据えてから四年になるが、こんな場所があったことさえ江本は知らなかった。  結婚をしたその夜から三日間、神への誓いの儀式としてこの滝つぼ裏の洞窟に籠ることが代々の習わしなのだという。  その間には、一歩もここから出てはならない。  今夜がその三日目になる。  明日の朝ここから出れば、江本は正式にパキュ族の一員として認められることになる。  ロゼを妻に出来たことは無論だが、さらに彼を歓ばせるものがここにはあった。  狭い洞窟の壁一面に、むかし描かれたような壁画があったのだ。  その壁画というのが、どうやら江本が発見した植物に由来しているようなのである。  壁画の中に、そっくりな形状の絵が出て来るのだ。 〝これは一体なんなんだ、あの植物に関連があるのだろうか〟  その壁画を見た瞬間、江本は身体中に衝撃を受けたかのような感覚に捕らわれた。
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