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8 25th / May / 2024
熱帯雨林の中の緑の集落は、深い睡りに落ちていた。
傍らには、妻のロゼが息子を抱いてゆったりと微睡んでいる。
〝睡っていてもキミは綺麗だね〟
江本は自らも不思議な眠気に身を委ねながら、美しいロゼの顔を撫でた。
最後の意識を振り絞り、朦朧とした頭で新婚の儀式で見た滝つぼ裏の壁画を思い出していた。
植物が大地から芽生える所から始まり、やがて成長した芽の両側に男女らしい二人の人間が描かれている。
二人の間に小さな人間が増える。
子どもが産まれたのだろう。
その子にやがて新種の植物と同じ形の芽が額から生える。
次の場面は多数の人間(おそらく村落の者たちだと思われる)の額にも、芽が生えている。
すべての人が、睡っているかのように横たわっている。
その芽はやがて、まるでタンポポの種のように額から離れ空へと浮かび上がる。
無数の種らしきものの下に、丸い物体が描かれている。
次の場面は、大きな爆発の瞬間のような放射線状の絵だった。
その後に描かれた種らしきものの下には、丸い物体はなかった。
それ以降、壁画を目にすることはなかった。
部族の掟で、新婚の最初の三日間以外にあそこへ入ってはならないのだという。
知識欲に負けそうになりながらも、江本はパキュ族の言い伝えを頑なに守った。
もし破れば彼は一族から追放され、二度と戻って来ることは出来ないと言われたからだ。
ロゼを失うことなど出来ない、それほど彼は妻を愛していた。
学者としての欲も、今ではほとんど残っていない。
壁画と同じように、息子のレオの額に芽が生えたのは五日前だった。
すぐにその芽は母親のロゼにも生えた。
睡ってばかりいるようになり、とうとう話しかけても揺すっても目を醒まさなくなった。
部族の者にもこの現象は瞬く間に広がり、集落は大きな睡りに落ちた。
「ロゼ、レオ、父さんももう眠くなってしまったよ。あの壁画の通りだ、あの植物はやはり特別な存在だったんだな・・・」
それ以上なにも考えることは出来なかった。
緑の集落には、もう動く人間は誰もいない。
江本は額から芽を生やし、静かに睡りについた。
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