第二話

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第二話

 緒花先輩と出会ったのは今から約六年前、大学に通いはじめてまもなくの頃だった。  僕は高校生のときに弦楽部でバイオリンを弾いていたのだが、大学に入ってからも趣味でバイオリンを続けるつもりでいた。大学に弦楽部サークルがあり、入部してみると、予想以上に大所帯だった。部員数は四十人を超えていたのだ。そのうちのひとりが緒花先輩で、ふたつ上の三年生だった。  練習の初日、担当が同じバイオリンだったこともあり、僕はたまたま先輩の隣に座った。なにげに隣に目をやった僕は、そのまま彼女に見惚れてしまった。  抜けるように白い横顔は鼻筋がとおり、楽譜に向けられた眼差しは凛としていた。グレーのスプリングセーターと、ネイビーのロングスカートが、細っそりとした身体にとてもよく似合っている。先輩の姿は心地いい音楽のように、すべてがうまく調和していた。  僕は感情の起伏が乏しいほうだが、そのときだけは胸の高鳴りを覚えた。一目惚れしたことに自分自身で驚いた。  しかし、一目惚れしてすぐに、失恋も経験した。先輩には彼氏がいたのだ。練習終わりの雑談の中で、彼女自身がこう言ったのだった。 「二年前から卓巳(たくみ)君とつき合っているの」  それを聞いたときの僕は、ショックを受けながらも、当然だと納得もしていた。こんな綺麗な女性(ひと)に彼氏がいないわけがない。  ただ、まもなくして先輩の彼氏が、好ましい人物ではないことを知った。
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