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君の名は…
「君のことを、拾う……」
あまりにも予想外なその言葉を、ただ繰り返した。
すると男はヘラヘラと笑いながら、大きな声で言った。
「そう! 袖振り合うも、多生の縁。俺のこと、拾ってよ。それで一緒に、体を探して欲しいんだよねぇ」
さっき逃げていったあの体は、やはりこの男のものだったようだ。
頭部と体が切り離された状態で、なぜこうしてしゃべることができるのかはまったくわからないけれど。
「……いやだって言ったら?」
「それは、困る! 次に誰か通りかかるのを待ってる間に、体はどんどん遠くに逃げちゃうと思うし。それにこんなイケメンの頭だけ落ちてたら、絶対目立つじゃん? それで次来たヤツに、SNSにあげられでもしたら……」
「したら?」
「俺、有名人になっちゃうじゃーん!」
あまりにもくだらないその答えに、心底げんなりしてしまった。
だからそのまま当初の予定通り、さっさと駅に向かって歩き出そうとした。
「待って、ふざけすぎた。ほんっと、ごめん! 頼む、この通り! このまま置いてかれたら、俺まじでやべぇんだって! さらし者にされた挙げ句、わけのわかんない人体実験に使われるかもしれないんだぞ!」
わけのわからないのは君の存在のほうだろうと言いたかったけれど、切羽詰まった男の様子を見て少しだけ。……本当に少しだけ、かわいそうになってしまった。
だから足を止め、再び男のほうを向いた。
「ありがとう、神様仏様! このご恩は、一生忘れません」
「……まだ拾うとは、言ってない」
「えー? 期待させるだけ、させといて。俺の男心を、もてあそんだの?」
きゅるんと瞳をうるませて言われ、イラッとしてしまった。
……この男、普段みんなからダウナー系だの無気力系だのと言われる僕をここまで苛立たせることができるのは、ある意味才能かもしれない。
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