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「もう黙って。仕方がないから、連れて帰ってあげる。だけど、体が見つかるまでの間だけだからね!」
「オッケー、オッケー! 黙りまーす、お口チャック」
形のよい唇を一文字に結び、真剣な表情を作る男。
あんなお願いを聞き入れるだなんて、正気の沙汰ではなかったと思う。だから顔には出ていなくても、やはり僕もそれだけ動揺していたということなのだろう。
明らかに怪しい申し出ではあったけれど、頭だけあんな場所に放置するのはあまりにも不憫に感じ、言われるがまま彼の頭部を持ち上げた。
思ったよりもそれは重量感があり、そのずっしりとした重みを感じることでこれが夢ではなく現実なのだと改めて理解した。
「これから僕は家に帰るために、電車に乗らなくちゃいけない。だからリュックに入って、おとなしくしててくれる?」
「えー? リュックの中は狭いし、暗いじゃん。タクシー乗ろうぜ!」
ほんと、この男は……。自分の立場というものが、ちゃんと分かっているのだろうか?
「口のチャックは、どうなったのさ? とにかく、黙れ。あと見ず知らずの君のために、そんな無駄遣いはできないよ。乗るのは電車だ。それが嫌なら、次に通りかかった優しい人に頼むんだね」
にっこりとほほ笑んで告げると男の顔面は蒼白になり、わずかに跳ねながらコクコクとうなずいた。
身体もなければ手も足もないのに、どうやって跳ねているのか不思議でたまらなかったけれど、そのまま頭をむんずと掴んでリュックの中にしまった。
「あ、そうだ! まだ俺、名乗ってなかったよね? 俺は、デュラハン。よ・ろ・し・く!」
バチンとウィンクをされたけれど、いくらイケメンでも彼は顔しかないのでこんなのシュール過ぎる。
だけど僕は順応性の高さには定評があるため、この奇妙な状況をいつの間にか受け入れ始めていた。
「ふーん、デュラハンね。一応覚えとく。僕は、佐々木 亮太だよ。あまり君とは、よろしくしたくはないけどね」
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