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「ねえねえ、勝の友達のさ、藤代くんが言ってたお化けが出るとこって、、ここ? 」 「やっと着いたな。 多分、ここだよ。聞いた噂によると。なんかヤバいくらいの古民家だな」 「こんなに山奥だったなんて、、。 スニーカーにしとけば良かった。 足がめちゃくちゃ痛いし、体中、蚊にさされまくってるし、、もう最悪」 「やっぱ失敗だったな、サンダル。 あー、痒すぎる。 俺もさっきから搔きまくり」 「真っ暗になる前にたどり着けたから、ホッとしたぁ。だって、ここまでくる途中に外灯らしいものがほとんど無かったじゃない。いくつかあった民家も全部空き家だったし。しかも、あんな小さな明かり一つだけだよ、宿の入口のとこ。そりゃ、お化けが出るって噂が立つのも当然よ」 「まさに不気味な感じのする宿、だろ? 期待できそうじゃん。あれー? なんなんだよ、このドア。重くてなかなか開かねーし」 「わっ、ほんとだ。重っ!」 「……上重様、お待ちしておりました」 「やばっ。この婆さん、ドア片手で開けてるぜ。マジかよ。」 「ちょっと!勝!、、。いえ、なんでもありません、、。 その、、引き戸が重くてなかなか開かなかったので、、」 「……中へお入りくださいませ」 「おい、あんなに腰が曲がってるぜ。 片手でドアを開けれるって怪力だよな、あの婆さん」 「しっ!今度こそ お婆さんに聞こえるじゃないの」 「あれだけの年寄りだよ? 耳が遠いにちがいないよ」 「この宿は古いから、きっと開けるコツがあるのよ。 それにしても殺風景だし、薄暗くて、カビくっさい、、」 「美里も言うじゃん」 「……お二階へご案内いたします」 「きゃっ! 何の音?!」 「歩いたから床が軋んだんだろ? 大げさなんだよ。あはは」 「……古い宿ですから」 「……こちらのお部屋でございます」 「、、部屋も薄暗い気がするけど、、。ま、いいか」 「おっ、畳じゃん。あれ? 奥になんかある、、」 「……では、失礼いたし……」 「あ、すいません。 奥の床の間にあるやつって、、人形? やけにでかいんだけど」 「日本人形? 私、初めて見た。あのサイズ」 「……市松人形でございます」 「へぇ」 「市松人形」 「……だいぶ年数が経っておりますから、ご注意ください」 「やべー、骨董品ってやつだ」 「あの、、ところで、私たち以外にお客さんはいないんですか?」 「……いらっしゃいません。 では」 「白髪ボッサボサ。 気持ちわりーな」 「うん。うちのおばあちゃんとは大違い。全然元気ないね、あの人。お年寄りがひとりで暮らすとああなっちゃうのかな、、」 「かもな、、。 はぁー、今日はスゲー疲れた。 畳の上で横になるってこんなに気持ちいいんだな」 「ほんと、横になれるって最高だね。 あ、やだ! この畳、ところどころに茶色いシミが、、気色悪い」 「なんでもかんでも古すぎるせいだろ? はは。お、そうだ。 お茶でも飲もうぜ。 茶葉ってこれか? これを急須に入れればいいんだよな」 「ちょっと、お茶も入れたことがないの?! めずらしーやつ」 「ほら。 入れてやったぜ、 ありがたく飲めよ」 「これ、、色が変、、。 緑茶じゃない、、。白っぽいのが浮いてる、、」 「 マジで? 」 「だって酸っぱいにおいもしてるでしょ? これ、、絶対腐ってるよ、、」 「 ったく、、この宿、、。 お茶くらいまともに用意できねーのかよ」 「もし、飲んでたらなんかの中毒で死んでたかもね」 「そうだな、命拾いしたな、、。もうやることねーし、つまんねーよ。スマホは圏外、テレビも無しか」 「こんな宿だよ、あるわけないじゃん」 「だよなー、、」 「ねぇ、勝、あの人形、、」 「ああ。なんか気になるよな」 「ずいぶん大きいけど、、。横に並んでみよっと」 「 お前の腰の高さくらいあるぞ!」 「子供みたいな大きさって不気味、、。それと、、何となく違和感ない?」 「違和感って言われてもなぁ、、。手もあるし、髪もあるし、、」 「私もはっきりとは分からないんだけど、、なんとなく違和感があるのよ。それから、お人形自体は古いのに、着物はきれいな感じ、、。もしかして洗濯されてる?」 「あの婆さん、着せ替えてんじゃないの? ははは。 おっ! 動くぜ、腕とか脚とか!」 「気をつけてよ、 高そうなんだから、、。きゃーっ! 何やってるのよ!」 「やっべー!! 頭どこいった?!」 「頭、取れちゃってるじゃない!」 「 俺、ただ触っただけだよっ!」 「早く探しなさいよ! もう、、どこに転がっちゃったんだか、、」 「あった!!」 「見つけたの?! どこに?」 「ちゃぶ台の下に転がってるぜ」 「勝が取ってよ、、。こっちを睨んでいるように見えるから、、」 「たかが人形の頭だろ? 腕伸ばして取ってやるよ」 「ほらよ!」 「いやっ。 私、、触りたくない」 「はは、分かったよ。 でも、なんで触っただけで取れちゃったんだろうな?」 「ほら、、その頭、乗せてあげて、、」 「頭が無い人形って、、まじ怖くね?」 「うん、、」 「よいしょ、、。 これで元通りだろ? 」 「えっ? グラグラししてる、、」 「、、うわ。 手、離すとまた落ちるぞ、この頭、、」 「 きゃーー!! 」 「何だよ?! 突然に」 「わかった! そこよ、違和感って! このお人形、、首が無いの!!」 「なんで無いんだよ、首が、、。だからすぐに落っこちてきたのかよ、、」 「知らないわよ! お化け探しとか、この際どうでも良くなってきた。 もう帰りたい!!」 「おい、泣くなよ、、。 しゃーない、横にでも置いておくか」 「、、、。」 「押し入れにあるシーツでも掛ければ余裕っしょ。 これを体と頭にっと、、。 オッケー、これでよし」 「、、、。」 「ほら見てみろよ。全然怖くねーから」 「、、、。ちゃんと足元まで隠してくれた?」 「もちろん。 俺、あの婆さん呼んでくるわ」 「イヤ! 一人にしないで! 私も一緒に行く、、」 「すいません、あの、部屋に来てもらってもいいですか?」 「……かしこまりました」 「あの、言いにくいんだけど、、触ってたら人形の首が取れちゃってさ。今シーツ掛けてあるんだけど、、」 「、、、どうして、あのお人形って首が無いんですか?、、」 「……お知りになりたいのですね」 「えっ、、」 「、、、。」 「……40年ほど前のことでございます。当時三歳になる娘と母親は、言われも無い罪を擦り付けられたために心中を図りました。先に、娘に首をくくらせ、亡くなっていることを確認すると、その母親は後から自分の首をくくろうとしましたが、自分かわいさのあまり、欲に負けて死にきれませんでした」 「ちょっ、何の話だよ、、」 「、、、。」 「……人間の首は想像以上に伸びるものでございます。 首吊りによって長く伸ばされた娘の首…。 足先が畳に届きそうなほどになっておりました」 「関係あんのかよ、あの人形と、、」 「、、、。」 「……その母親は娘の体を引き寄せて首に絡まっている縄をほどいてあげようとしました。が、その縄はあまりにもきつく娘の首に食い込こんでしまい首と一体化しているほどでしたので、それをほどいてあげることは叶いませんでした」 「、、、。」 「、、、。」 「……どうしてもその縄と娘の首を離してあげたいと思い立ち、母親は斧を手に取り、娘の首に向かって一気に振り下ろしたのでございます」 「ひぃっ」 「もう、やめて!」 「……それはそれは、地獄のような有様でございました。返り血を浴びて真っ赤に染まった鬼のような母親と、その傍らには頭と体が離れた幼子が転がっていましたから。 人間の欲とは怖いもの……。娘を殺しておきながら、自分はいまだに生きながらえてしまっているとは……。新しい首をあの子に探してあげることが親としての何よりの生きがいになっているのでございます…」 「、、、どういうことだよ? まさかこの部屋って?!」 「あ、、あのお人形は、、」 「……私の娘でございます。 娘はこの部屋で息絶えました。あの人形は娘の死後からどんどん首が伸びるばかり。娘が苦しがっていると思い、人形の首も切り落としたのでございます」 「うそだろ?! あんな人形が娘だって? うわっ、電気がチカチカしてる、、」 「えっ? 何で? お人形に掛けてあったシーツが取れてる! きゃーーー!! 真っ暗っ!!」 「……ヒヒヒヒ。 娘も自分の首を探し回るのですよ。 さあ、首を差し出していただきましょう」 「やめろ!! こっち来るなよ!!」 「あっ、、、あっち行って!!」 「……ヒヒヒヒ」 ジリリリリリリン。 「…………。」 「あのぉー、すいません? そちらを予約したいんですけど、、」 終
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