渇き

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それは蝉の音が五月蝿い夏のことでした。アスファルトは陽射しを反射し、水を飲んでも飲んでもすぐに喉が渇きを覚えてしまう。そんな暑い日のことでした。 ショッピングモール3階の廊下、そこにある長椅子に座って私はサトルを待っていました。几帳面な彼は約束の時間より10分前に来るのを、私は知っているためその時間よりやや早く来るようにした。それは私が遅れたら彼に負けたような気がして気に食わないから。ショッピングモールは吹き抜け構造で3階までエレベーターを使わずともすぐに辿り着くことができます。 私はゆっくりと立ち上がると、サトルがこちらに歩いてきているのを見つけました。彼が着ているTシャツはお洒落なロゴが入っており、彼の細く白い腕が見える半袖でした。その白さはまるで天使の翼のようにも思えます。 「ごめん!待った?」 「ううん、今来たとこ」 「なら良かった、あとこれ。」 彼はそう言って冷たい缶ジュースを私に渡して笑いました。その笑顔は真夏の太陽に負けないくらい輝いていました。私はこの笑顔が見れるなら何時間でも待てる、そう思えるくらい綺麗な笑顔でした。 サトルは私が座っている長椅子に腰掛けました。 「サトル、ごめんね。呼び出して。」 「いいんだよ。どうせ、暇だったし」 彼は照れたように笑いました。サトルは美人で成績も優秀で運動神経も良いのに全然それを鼻にかけず、人懐っこい性格でした。誰にでも優しいのです。私はそんなサトルだから好きになったのかもしれないです。 「良かった、ちょっと買い物に付き合ってもらおうかなって、服とか買いたいし。」 「サトルの好きな服とか知りたいし……」 「なんか言った?」 「ううん、なんでもない。」 私はサトルの少し先を歩き始めました。ショッピングモールの中は少し涼しく、私とサトルはゆっくりと歩きながら服屋さんに向かいました。 「サトルはどんな服とか好きなの?」 「うーん、これとかかな。ユリに似合うから」 サトルは私が好きそうな服をすぐに見つけました。私は嬉しくなって試着してみます。 「どう?似合ってる?」 「うん、可愛い」 サトルは笑顔でそう言いました。私は鏡に映る自分を見るのが好きでした。自分が少し大人になったように感じたからです。 「じゃあこれ買うね」 「え、いいの?」 私はその服を買いました。サトルが褒めてくれたから買ったのです。でもそのことは恥ずかしくて言えませんでした。 「異性の友達がサトルしかいないからさ、こういうオシャレなのが分からないんだ。特に異性の感覚は女同士のそれとは違うもんなの。だから、本当にサトルがいてくれて良かった。」 「そんなことないよ。僕だって異性の友達は少ないし」 「アミはどうなの?」 アミは、私とサトルの幼なじみだった。彼女は頭が良くて運動もできる。彼女がいるとなんでもそつなくこなせて、自慢の友達だった。多分、サトルはアミが好きだったと思う。それはサトルがアミを見る目と、私がサトルを見る目が似ていたから。アミはそれを知らないでいたと思う。多分それこそ異性の友達という関係だと思う。 「そうだね。」 そう言う彼の目はどこか遠くを見ているようでした。私はそんなサトルにどこか違和感すらありましたが、あまり深くは考えることはしませんでした。 「今日はありがとね」 「ううん、楽しかったよ。また行こ?」 「うん、連絡する」
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