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4月。この日は紗倉が俺のアパートを訪ねてきていた。
ゴロゴロと大きなスーツケースを持って101号室の玄関に立っている。
「エスタータウンの魔法少女は、一年の間大変な目に遭います。でも、とっておきのご褒美もあるんです」
紗倉とはあれから魔法少女の話はしていなかった。なんだか、しちゃいけないような気がしていたからだ。もうあの小悪魔クマ桜妖精は居ない。
紗倉は泣きそうな顔で俺の顔を見上げる。
「好きな願いを一つだけ、叶えてくれるんですよ」
「紗倉は何を願ったんだ?」
「運命の人との幸せな生活、です」
あの日、紗倉が逃げ出さなかったのは絶対に叶えたい願いがあったかららしい。家族の居ない紗倉が命を賭してまで欲しかったのは、新しい家族になり得る人だったという。それがーー俺。
もう、俺たちの気持ちは一つだ。
「この街に引っ越してきてくださってありがとうございます、私の運命の人」
2人の唇がゆっくりと重なった。
*
ここはレジデンス星乃101号室。
表札に一つ、名前が増えた。
ーーおわり
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