新たな魔王と最後の純血の魔女の結び

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新たな魔王と最後の純血の魔女の結び

 夜の異界と呼ばれる魔界は盛大な祝福で賑わっていた。新たな魔王が誕生したためだ。誰もが楽器を鳴らし、酒を呑み、踊りをする。その一方で、とても静かなところがあった。魔王が住む城だ。 「人間が多く住む世界の者を嫁にしたいかぁ」 「新しい魔王様は珍しい者をお好みのようで」  術者達が召喚術を頑張っている間、魔界の重鎮たちは好き勝手に会話をしている。 「そろそろ始まったか」 「これどんぐらい時間食う訳?」 話をしながら眺める。時間が経ち、魔法陣が白く光り、何かが召喚された。 「召喚出来たみた……え」  誰もが見て、固まった。 「おいおいおい」  慌て始める。召喚されたものは素っ裸の女性だった。銀髪をひとつに纏めている。片手で収まらないほどの乳房を持ち、触り心地の良さそうな白い肌をしている。どこかで浴びていたのか、滴る水が鎖骨に行き、胸に行き、城の床を濡らす。清楚でどこか色気を感じさせるものを演出していた。女性の目が開く。サファイアに似た瞳は黒髪を背中まで伸ばしている美丈夫の悪魔に向けている。 「すまないがここは魔界か」  聞かれた悪魔は視線を逸らす。 「そうだ」 「そうか。貴様はどうやら戻って来れたみたいだな。その感じだと次の魔王は貴様か。なら祝福をしておくべきか。おめでとう。新たな魔王よ。健やかな魔界の成長をお祈り申し上げます」  次の魔王と呼ばれた悪魔は頬を赤く染める。 「そうだが……その感謝もありがたいが。その前に魔女よ。服を……」 「何故恥ずかしがる。サキュバスで散々見慣れてるはずであろう?」  魔女と呼ばれた美しい女性は傾げる。 「そもそもだ。あの時、腐る程私の裸を見ていたではないか。今更だと思うが……公式で全裸はマズイか。待っておれ」  一振りで魔女は真っ黒いドレスを纏う。誰もが感嘆の声を上げる。露出しているところは少ない。しかし身体の形に沿っており、裾が短いため、動きやすい恰好となっている。 「これなら問題なかろう。さて。新しい魔王よ。最後の純血の魔女であるこの私にどういったご用件で?」  可愛らしい声だが、威圧を感じさせるものだ。魔王は深呼吸をして、例のプロポーズを仕掛ける。 「魔女よ。新たな魔王となった私と共に歩んでくれないか」  そう言って、魔王は暗い魔界では珍しい白く輝く石の指輪を上げる。 「まさかこの歳になって結婚か。何百年ぶりだろうな」  魔女は誰も聞こえない程度の大きさで呟いた。口が緩んでいる。 「良かろう。私は魔女として、異界の架け橋となることをここで宣言しよう」  魔女は魔王から指輪を受け取り、すぐに付けた。こうして魔女と魔王は夫婦となり、重鎮たちは祝福をあげた。夜の営みもあったが、魔王は経験不足というかヘタレだったため、躊躇していたらしいが、それはまた……別のお話しで。
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