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 もう一度彼に会いたいと、何度かじいやにねだってみたものの、心配をかけた場所に連れて行ってくれるはずなどなく。  自衛出来るぐらい強くなれば、もう一度行けるだろうと言う事で護身術、魔法に付いて真剣に練習し、得られたものは専属家庭教師からの称賛と、仮に男だったらと言う周囲からの噂と、もっと女性としての稽古に力を入れなさい、と言う母からの小言。  結局のところ、その後わたくしが彼と顔を合わせたのは、別の場所での事だ。  それから一年ほど。わたくしが五歳になった時の事。  私に許婚がいる、と言われ、オシャレなドレスに身を包み、許婚と顔合わせをする日となった。  勿論、彼の事は忘れていなかった。私を颯爽と助けてくれた彼と、どこかで再び会えないかと願っていたし、そのために努力もしてきたが、結局わたくしはその間街に行けることもなく、とは言えそのころには貴族の子女としての自覚も芽生えており、許婚としての相手が王子である、と言う事も知らされていた。  彼に会いたい、と言う気持ちもあったものの、名前も知らない彼の事。知っていたのは、彼が弓を得意としていたであろうことと、金髪金眼であったこと、わたくしに対しても物おじしない態度であったと言うことぐらいだ。  荷馬車に揺られ、王城へとやって来た。  そのまま父母に連れられ、王城のお茶の間へと連れてこられれば、既に部屋の中にいる王子の姿があった。  金髪の後姿。振り向いた彼を見たとき、運命は実在するのか、と思った。 「お初にお目にかかる。デュオローグ=アルティ=フェネクスだ」 「マーガレット=ルクセンブルグ=フィオネットと申します。宜しくお願いいたします」  見間違いであろうはずがない。その艶やかな金の髪も、切れ長の金の瞳も、まだ幼かったその声も、わたくしがずっと会いたいと願っていた人物。あの時の彼から、ちょっと大人びたものであったのだから。 「後は当人達に」 「そうですわね」  親達は退出し、残されたのは給仕たちと王子と私だけ。  とは言え、何を話せばいいのか。  しばし悩んだ結果、昔の事を口にしていた。 「あの、デュオローグ王子」 「なんだ?」 「一年ほど前、街で助けた女の子の事を覚えていらっしゃいませんか?」 「……なんだそれは?」 「……えっ?」  思わぬ視線にたじろいでしまった。先ほどまで興味無さげだったその視線から、急に敵意を向けられた気がして、その後の言葉を口にするのを躊躇っていた。 「い、いえ……なんでもありません」 「……そうか」  その後、わたくしは庭に連れていかれ、他愛もない話をしていた。  否定はされたものの、あの時助けてくれた彼は、やはりデュオローグ王子であったのだろうと、その横顔を見て、改めて思った。  彼の鋭い視線を思い出し、以後その話を、彼とすることは出来なかったけれども。  だけど、わたくしは、そこで王妃として、あの時颯爽とわたくしを助けてくれた彼を、隣で支える存在になりたいと、そう思った。  それからは、女性らしくあろうと、将来の王妃として恥ずかしくないよう、今まで手を抜き気味だったダンスやお茶と色々頑張ってみたものの、彼からの評判は芳しくないものばかりだった。 ―― 『もう一度、あの頃のように、わたくしをガレットと、呼んでいただくことは、手を繋いで、走って頂くことは……』  眠るマーガレット。そんな裏エピソードがあったなんて。彼女の心の声を聞いて、彼女の応援をしたいと思うが、私では彼女に干渉する事が出来ない。ただ見ていることしか出来ないのだ。もどかしく思うものの、どうにもならないものは諦めるしかない。  と言うか夢が長すぎる。もうそろそろ起きてもいいんじゃないか私、と思った所で、私の視界が急に光った。光が収まった後は何事も無く、私は長い夜を一人、悶々と過ごしていた。
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