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「ん……もう、朝かしら?」  結局私は一睡も出来なかった。どういうわけか全く眠くならない。いや、夢の中だから眠くならないだけ? 全くもって意味が分からない。 「え? 何者!? どこにいるの!?」  目を開ける。開けた視界には豪勢な天幕が着いている。周りには誰もいない。いや、私が気付いてないだけか? マーガレットの声が聞こえるし。 「……え? 目を開けるって、マーガレットって、あなた何なの? いきなり人に声をかけてきて」  ん? 何それ、もしかして、私の声、聞こえるの? 「聞こえるわ! 曲者! 姿を見せなさい!」  うそーー! 昨日まで何も聞こえなかったのに一体何が!? って言う前に、姿を見せろって言われても……。見せられるなら見せたいけど、実体化する方法とか分からないし。 「実体化? 見せられるなら見せたい? 意味が分からないのですけれども」  ホントに聞こえてそう……。意味が分からないのは私も一緒。でも今、私の声が聞こえてるってことでしょ? 「そうですわ。あなた、わたくしに何をしたの?」  何もしていない、と言いたいんだけど、そういっても信じてくれなさそうだよね。 「当然ですわ。今までに聞いたこともない不可思議な術ですもの」  それは確かに分かるんだけど……。一応私の名前を伝えておくよ。私は香坂千尋。数日前からずっとあなたの意識の中にいたんだけど、今しがたあなたと話が出来るようになった、別世界の人って言えばいいかしらね。 「コウサカ=チヒロ? 聞いたことない名前ですわね。しかも別世界ですって? そんなもの、あるわけないでしょうに」  そう言われても。あるものはあるとしか言えないし、ここ数日私の意識はあなたの中にとどまりっぱなしで、意識を戻す方法も良く分からないし。 「……あなたは、わたくしを害する気はあるのですか?」  そんなものは無いよ。と言うか、あなたがデュオローグ王子を大好きなのを申し訳ないけど聞かせてもらって、その手助けをしたいと思っているぐらいだし。 「……え? な、なんですのそれは!? そ、そんな! わたくしはデュオローグ様の許婚であって……」  でも言ってたでしょ? その輝く金の眼に見つめられたくて、その声で、昔の様にガレットと呼んでほしくて、昔のように、手を繋いで歩きたくってって。 「な、な、なな、なななな!? なんでそれを!?」  だから私はあなたの意識の中にいるみたいなの。あなたの心の声が私に丸聞こえなの。ずっと言えないけど願ってた思いを、申し訳ないけど聞かせてもらってたわけ。 「……そ、そんなことが」  無いと思うでしょ? あるんだから仕方ないの。それに、今まで私、あなたの事を良く知らなかったけど、今私はあなたに協力したいの。 「……協力、とは?」  デュオローグ王子、今も好きなんでしょ? 「え、えぇ。ですが、わたくしたちは許婚ですし、いずれは結婚する間柄ですし……」  残念だけど、何もしなければ、聖女の子にデュオローグを取られるよ? 「な! そ、そんな出鱈目……」  本当にそう思う? 最近、デュオローグ王子があなたを見る目が更に冷たくなっているの、うすうす感じているんじゃないの? 「……そ、そんな事は……」  ないの? そもそも最近、顔を会わせる機会もめっきり減ってるんじゃないの? 「……」  昨日だってそうでしょ? 聖女様の学園での生活を手助けするって、デュオローグ王子から直接言われたわけじゃないでしょ? 「どうしてそれを……。いえ、確かに、仰る、とおりですわ……」  ねぇマーガレット。今ならまだ間に合う。あなたが本当に手に入れたいものは何? 王妃としての立場? それともフィオネット伯爵令嬢としての評価? そうじゃないでしょ。あなたが一番欲しいのは、デュオローグ王子の愛なんじゃないの? 「……コウサカ=チヒロ」  チヒロでいいわ。長いから。 「分かりましたわ。チヒロ。あなたの言う通り、確かに最近、わたくしはデュオローグ様とほとんど話も出来ておりません。むしろ、最近は近寄るなとばかりに、わたくしを見る眼が、とても冷たい気がして……。わたくし、頑張って来たつもりですの。王妃として、王子の婚約者として恥ずかしくない人であろうと、長年努力を、積み重ねてきたつもりですの」  そうだね。きっとそれは間違いじゃない。だって、その努力が実を結んで、あなたは間違いなく、この学園で才女って言われているのは、分かっているでしょ? 「……チヒロ。あなたの言う、聖女様がデュオローグ様の恋人となる、と言うのは正直信じられません。ですが、確かにわたくしが秘めた思い、誰も知らない私だけの記憶を知っているあなたがいるのも事実。そして、彼の眼が、より冷たくなった、と言うのも、信じたくはありませんが、感じている所ではあります。チヒロ、わたくしは、どうしたらいいのですか?」  分かってる。だから任せてよ。こうなったのも何かの縁。あなたの恋、ちゃんと実らせてあげるからさ。
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