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☆
「デュオローグ様、フェリス様の学園のご案内、私も同行させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……マーガレット」
「あの、どちら様でしょうか?」
「……あぁ、私の婚約者、フィオネット伯爵家のマーガレットだ」
「は、初めまして。フェリス=アイラ―と言います。よろしくおねがいします」
フェリス入学初日。学園の案内を任されたデュオローグに、マーガレットから声をかけてもらう事にした。
最初のデュオローグとのイベントはこれだ。聖女として入学したフェリスが、現生徒会長であるデュオローグと共に学園の中を回り、学園の有力者達である四人の攻略対象を紹介していく、と言う流れだ。
本来であれば王子と共に回るフェリスだが、今回はマーガレットも一緒に回ってもらう手筈とした。
『これで、よろしいのですか?』
『そう。後でフェリスが王子に接触する場面があるけど、そこではぐっとこらえてね』
なお、思考が常に丸聞こえだと眠るのも辛いと言う事で、マーガレットが魔法らしきもので、任意で対話出来るようにしてくれた。互いに必要と思うときだけ、マーガレットと会話が出来るようになっている。
原理は全く分からないが、流石才女と名高いマーガレットであると思った。
『接触する場面とは……』
「きゃっ!」
問いかけの途中で答えは出た。フェリスはネズミが苦手なのだ。なぜこんな所にネズミがいるかは分からないが、入学当初、廊下でネズミを見つけたフェリスは、デュオローグと抱き付くような形になるのだ。
「フリーズ!」
「ちょっとあなた!」
『マーガレット落ち着いて!』
結果、初日からデュオローグに抱き付くフェリスをマーガレットが目撃する事で、ゲーム上でのマーガレットはフェリスに敵意を露わにする事になる。
なおネズミは、デュオローグの魔法により氷漬けにされる。
『落ち着いてマーガレット!』
『これが落ち着いていられますか!? 事もあろうにデュオローグ様に抱き付いて!』
『いいから深呼吸して!』
ここでフェリスに対して怒声を飛ばしてしまえば、彼女との関係性を構築するのが難しくなってしまう。怒る彼女を必死に宥め、何度か深呼吸をさせる。
「……マーガレット。息が荒いが大丈夫か?」
そう思うなら何とかしてよ朴念仁!
確かに元々鈍感気味だったけど! と言うかマーガレットの思いをここまで無碍にして今までフェリスになびいてたのを見ると腹立ってくるけど! ゲームプレイ中は私もニヤニヤしてたかもしれないけど!
「……だ、大丈夫ですわ。フェリス様、一つよろしいですか?」
「あ、えっと、なんでしょう?」
何とか心を落ち着けてくれたようで、事前に打ち合わせておいた内容を伝えてもらう。元々彼女は平民出身で、貴族間の風習等を当然ながら身に着けているわけではない。
だが、ゲームの中では主人公だからかもしれないが、その辺りはきちんと聞き入れ、貴族の女性らしさをきちんと身に付けていく、と言う設定になっているのだ。話せば分かってもらえるはず。
「殿方の体に触れるのは、婚約者であったり、恋人であったり、と言う間柄に限られますわ。もしそうでないのなら、離れていただいてもよろしくて?」
「あ、す、すみません!」
自分がデュオローグに触れていた事に気付いたのだろう。ぱっと体を離し、ペコペコと頭を下げるフェリス。
「も、申し訳ありません。私、どうしてもネズミが苦手で……」
元々彼女は道具屋の娘である。頭を下げるのは商売柄慣れている、と言った所。謝罪の立ち振る舞いには思うところがあったのか、マーガレットの心が少しずつ落ち着いていくのを感じていた。
『マーガレット、許してあげて』
『……ここでわたくしがすべきは、彼女との和解かしら?』
『そうね。それが出来るなら、一番いいと思う』
『……分かったわ』
ありがとうマーガレット。彼女は才女と言われるだけあり、頭の回転も早そうだ。彼女はフェリスを視界に納め、続く言葉を口にした。
「誰でも苦手なものはありますわ。フェリス様」
「はい」
「ですが、今回の様に、あなたは知らないけれど、人を不快にしてしまう習慣を知らぬ間に実行してしまう、と言う可能性も普通にあるでしょう」
「……はい」
「マーガレット。まだ彼女は――」
彼女の瞳にデュオローグが映る。このような形であれ、会話できることは嬉しいのか、喜びの感情が伝わってくるようにも思えた。
でも、ちょっと待ってほしい。
『マーガレット、聞こえる?』
『何かしら? チヒロ』
『今、あなたが何となく嬉しそうって言うのは伝わって来てるけど、この感情に呑まれちゃだめだよ。あなたは、もっと仲良く、デュオローグ様と話したいんでしょ?』
『……えぇ。今久しぶりに声を聞けて嬉しい。でも、本当に、これより良くなるの……? ならいっそ』
『出来るから。だから私を信じて。フェリスとも、デュオローグ様とも仲良くしているあなたを、私は見たいから』
『……分かったわ』
続くデュオローグの言葉が聞こえて来た。
「――だからそんなにきつく当たるものじゃない」
「デュオローグ様。誤解なさらないでください。わたくしはフェリス様と仲良くしたいのです。勿論、デュオローグ様に学園での生活をフォローしてあげなさい、と言うお話はお伺いしています。ですが、フェリス様は女性です。同性の誰かがいた方が、困った時に手助けできる範囲も広いと考えています。その手助けを、私はしたいのです」
「だが……」
「あの、マーガレット様」
渋るデュオローグの声に重なったのは、フェリスの声だった。
「どうかしたかしら?」
「いえ、あの、私、聖女と言われているらしいのですが、正直全く実感がなくて、とは言え、この有名なエスルナ学園で聖女として生活を、と突然言われていて、右も左も分からない状態なのです。も、もしお願いできるのであれば、マーガレット様にも、お助けいただけると助かります」
お、おぉぉ!? 随分前向き!? と言うかよくよく考えてみたらゲームの中でフェリスの女友達なんてほとんどいなかったしな……。それ考えると実はゲーム内のフェリスってメッチャ寂しくない!?
「だから言っているじゃないの。私はあなたと仲良くしたいと」
「じゃ、じゃあ」
「えぇ、宜しくね、フェリス様」
「あ、はい! よろしくお願いします! マーガレット様!」
……何かゲームと流れが全然違ってるけど、フェリスは嬉しそうだし、マーガレットは納得してそうだし、まぁいっか。
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